見事な調査報道2020年03月23日 09:19

一昨日の「報道特集」で前回放送できなかった「やまゆり園」殺傷事件の取材報告が取り上げられた。「やまゆり園事件が問うもの」と題して、地裁判決直後の被害者遺族の感想、障害者を家族に持つ最首悟氏の会見、障害者の立場から「れいわ新選組」木村英子議員のインタビューのほか、植松被告と手紙をやりとりしていた金平キャスターの3回目となる接見での対話なども詳しく紹介された。期待以上の素晴らしい内容だったのでメモにした。
 再放送は無いので、いくつか印象に残った言葉を紹介したい。
 最首悟氏 「(被害者の)匿名こそが大きな問題(中略)。名前を明かしたら終わりだという気持ちは生々しくある。それを受け止めて改善するか--あるいはそのままにするかは社会の側にある」
 大学時代の同級生 「(植松は)大学3年生の頃から自分を大きく見せるような性格の人に変わってしまった」
 記者への植松の返信 「人を殺してはいけない。それは当然。人とは何か考えれば--私が殺したのは人ではありません」
 「れいわ新選組」木村英子議員 「事件を聞いたときに私だったかもしれないという恐怖があった。(中略)とうとう起きちゃったんだなという感じ。人間の本質を彼が示している気がしてならない。(中略)誰にでもある感情。誰の心にでも潜んでいるものだと思う。育てるのが精いっぱいで一家心中をしてしまう人もいる。(中略)殺してしまわなければ生きていけない状況を抱えている人はたくさんいると思う」(植松の「意思疎通できない人を選んで殺害」したことに対して)「職員に聞いてしゃべれませんと言ったら刺したと。なんかもう冷静ですよね。悪を成敗している気持ちでやっている--(中略)罪悪感を持ってはいないので、エスカレートしていけば、だんだんああいうふうに」
 さらに、今回の接見の一部を字幕から拾った。
K(金平)「あなたが殺傷した人 その家族たちに今言いたいことは?」
 U(植松)「申し訳ないんですけれども仕方がない。社会にとっては殺すしかない。文句を言われている方(家族)は精神が病的。障害者の家族は“平気でうそをつく”“話が通じない”“突然泣き出す”“大声で叫ぶ”の4つ」(中略)
K「英雄になりたいという思いはあったんでしょう?」
 U「うーん… それは、別に悪い思想ではないと思いますけど」
K「トランプ大統領を崇拝しているのはなぜか?」
 U「かっこいいからです」
K「どういうこと?」
 U「生き方がかっこいいです。トランプ大統領には世界を幸せにしてほしいし、安倍首相には貧乏人を幸せにしてほしいと思います。かっこ良ければすべてが手に入る」
K「かっこいいとは例えばどういうことですか?」
 U「ジャスティン・ビーバーとか大谷翔平とか。かっこいいから全てが手に入っている」(中略)
K「弁護人は控訴するでしょう」
 U「取り下げます。(中略)(事件の)問題は僕の中では終わりました。問題の答えは僕の中で出ているので…」
K「それは極刑になって終結する?」
 U「え…それは…」
K「ヒーロー・英雄で終わりたいということ?」
 U「それ、いやなんですけど…。僕は死にたくない。死にたくないんです。死にたくないんだけど、人の命を決めるというのはそういうこと」
 「津久井やまゆり園」の件は、これまでFacebookで4回ぐらい触れている。どうしてこんなに気になるのだろうか。繰り返し思うのは、やはり植松被告が何ら特別な人間ではないということに尽きるかもしれない。45人殺傷という大量殺人事件の実行犯ではあるが、「(接見者に)礼儀正しく頭を下げ」(番組ナレーションから)、一方では「自分の犯行を正当化し、遺族らを中傷する持論を続ける」(同上)態度は、精神が統合している“ごく普通”の人間であることを良く示している。特集のまとめで膳場さんの「実際に植松被告に会ってみてどんな人でしたか?」という問いかけに金平さんはこう答えた。「たった3回しか接見していませんし、手紙の遣り取りはしてましたけれど、敢えて言えばですね。どこにでもいる青年ですね。コミュニケーション能力もあるし、それから、最後まで犯行を正当化していたその主張を聞いていると、幼くて短絡的です」
 そして、最後にこう締めくくった。「生きていてもいい人間と生きていてはいけない人間を選別する思想、“生産性”とか“効率の悪い”人間は消去しても良いという優生思想的な価値観が私たちの社会の隅々に染み付いているんじゃないかということを、裁判を見ながら考えました。そこを見たくないんだ、裁判がね。植松被告の言動からは私たちの社会のある種“本音”みたいな、自分は正義を実践しているんだみたいな。僕はそういう考え方を絶対肯定しませんけれど、僕らの社会はそういうあり方みたいな価値観が染み付いているということに向き合うことを忘れちゃいけないと思いました」