すごい詩人の物語 ― 2020年03月07日 14:22

二十代の頃から作品は知っているけれど、まともに向き合うことがなくて、時々思い出したように書棚から引っ張り出しては拾い読みをする。そのくせ、本屋などでその名前が付いている新刊を見かけたりするとつい気になって手に取ってしまうのが、山之口貘という詩人である。
生前親交のあった金子光晴はこう激賞した。「詩とはあまり縁のないおしろうと衆から、『貘さんは詩人としてどのくらいの地位にいるのですか。(中略)』ときかれる。ばかな質問ではない。おそらく、もっともな質問で(中略)その詩は従って第一流の詩であると。日本のはえぬきの詩人と言えば、萩原朔太郎、それ以後は、貘さんだろう」(『鮪に鰯』小序より)
「沖縄」と「貧乏」で語られること多いその詩人は、22歳で二度目に上京した後、戦前・戦後を“本土”で暮らし、34年間ぶりに帰郷した2年後に亡くなる。その忌日に合わせて昨年刊行された『すごい詩人の物語』は、残された詩を中心にしたアンソロジーでその生涯を辿っている。見開きに収まるようにレイアウトされた詩と、所々に添えられたシンプルなイラストが、山之口貘に新しく出会う読者へ届くように工夫されている。
久しぶりに貘さんの詩を読んでいたら、何やら上質な落語を聴いているように感じた。尋常でない推敲の果てに生まれた詩は、繰り返しの口演で磨き抜かれた古典落語のような味があって、何より命が吹き込まれた言葉の数々だ。“古典”は繰り返し読まれるモノだろう。
生前親交のあった金子光晴はこう激賞した。「詩とはあまり縁のないおしろうと衆から、『貘さんは詩人としてどのくらいの地位にいるのですか。(中略)』ときかれる。ばかな質問ではない。おそらく、もっともな質問で(中略)その詩は従って第一流の詩であると。日本のはえぬきの詩人と言えば、萩原朔太郎、それ以後は、貘さんだろう」(『鮪に鰯』小序より)
「沖縄」と「貧乏」で語られること多いその詩人は、22歳で二度目に上京した後、戦前・戦後を“本土”で暮らし、34年間ぶりに帰郷した2年後に亡くなる。その忌日に合わせて昨年刊行された『すごい詩人の物語』は、残された詩を中心にしたアンソロジーでその生涯を辿っている。見開きに収まるようにレイアウトされた詩と、所々に添えられたシンプルなイラストが、山之口貘に新しく出会う読者へ届くように工夫されている。
久しぶりに貘さんの詩を読んでいたら、何やら上質な落語を聴いているように感じた。尋常でない推敲の果てに生まれた詩は、繰り返しの口演で磨き抜かれた古典落語のような味があって、何より命が吹き込まれた言葉の数々だ。“古典”は繰り返し読まれるモノだろう。
日韓が和解する日 ― 2020年03月08日 14:23

先月、韓国の大学生と交流する機会があったが、それに先だって事務局が用意した2回の勉強会があった。1回目は「隣国を知ること」と題した日韓交流の前提にある意識の違いについて、2回目は「国際法の視点から考える日韓請求権協定」と題した日韓に横たわる戦後補償の解説だった。残念ながら所用があって2回目は参加できなかったこともあり、国際法がらみの視点について何か良書はないかと探していて見つけたのが、その名もずばり『日韓が和解する日』という執筆の目的そのものを書名にしたものであった。
著者の松竹伸幸氏については、以前平凡社新書の『対米従属の謎』で、国際社会における日本の現状についての冷徹な認識に教えられることが多かったのを記憶しているが、将来にわたり困難な道筋ではあるけれども、歩むべき進路の可能性について真摯に検討を加える態度は本書でも貫かれている。
ひとつだけ言えることは、日韓問題を解決する困難さについて、その経緯に“誤解”はあるにしても、韓国の市民は前へ進んできたということだ。私たちも“誤解”をおそれずに、この国のありようを認識した上で相対する必要がある。それは、避けて通れない道だろう。
著者の松竹伸幸氏については、以前平凡社新書の『対米従属の謎』で、国際社会における日本の現状についての冷徹な認識に教えられることが多かったのを記憶しているが、将来にわたり困難な道筋ではあるけれども、歩むべき進路の可能性について真摯に検討を加える態度は本書でも貫かれている。
ひとつだけ言えることは、日韓問題を解決する困難さについて、その経緯に“誤解”はあるにしても、韓国の市民は前へ進んできたということだ。私たちも“誤解”をおそれずに、この国のありようを認識した上で相対する必要がある。それは、避けて通れない道だろう。
いつのまにか異常になる世界 ― 2020年03月10日 09:06
昨日は録画しておいた映画の鑑賞。少し前に放映されたスピルバーグの『シンドラーのリスト』を視聴した。3時間15分という長丁場だが、日本での封切り時に映画館へ観に行った記憶がある。ナチスドイツに占領されたポーランドのクラクフで、労働力として雇い入れたユダヤ人を軍事工場に必要な“職工”であると守り抜いた実業家オスカー・シンドラーを描いている。もう四半世紀も前の作品だ。歴史的な事実を元にしていることを強調するようなドキュメンタリー調のモノクロ映像だが、ほんの2シーンだけ少女の服が赤く染められている。
脚本・撮影の完成度が高いせいかあまり長さを感じさせない。その中で二つの対話シーンが印象的だった。
一つはナチスの将校アーモン・ゲートが収容所のユダヤ人を小銃で狙い撃ちしていたバルコニーでの夜。
ゲート「君を 見てるが 決して酔わない。 驚くべき 自制心だ。 自制心は力。 パワーだ。」
シンドラー「ユダヤ人はそれを恐れるのか?」
ゲート「我々の“殺す力”を恐れてるのさ。」
シンドラー「そう。 “理由なく殺す力”をね。 犯罪者を死刑に処すと気分がスッキリする。 自分で殺せば更に気分がいい。 それは“力”じゃない。 それは“正義”で“力”とは別のものだ。 力とは。 人を殺す正当な理由がある時に殺さないことだ。
ゲート「それが力?」
もう一つが、映画の題名にもなったリストを作成する前夜のシーン。アウシュビッツへの移送が決まった直後のユダヤ人会計士イザック・シュターンとの対話。
シンドラー「聞いたか?」
シュターン「ええ。 これが閉鎖命令です。 皆を送り出し私は最後の汽車で…」
シンドラー「それを言うな。 ゲートに よく頼んでおいた。 君に特別待遇を与えるように。」
シュターン「あそこの“特別待遇”には 恐ろしい意味があるそうです。」
シンドラー「じゃ“優先待遇”と。 新語が必要だ。」
シュターン「まったく」
異常な世界は突然現れるものではなくて、いつのまにか日常の中に入り込んでくる。そこに気が付かなければ同じようなことは繰り返されるだろう。イスラエル建国以降のパレスチナ人の虐殺はそのことを良く表している。
脚本・撮影の完成度が高いせいかあまり長さを感じさせない。その中で二つの対話シーンが印象的だった。
一つはナチスの将校アーモン・ゲートが収容所のユダヤ人を小銃で狙い撃ちしていたバルコニーでの夜。
ゲート「君を 見てるが 決して酔わない。 驚くべき 自制心だ。 自制心は力。 パワーだ。」
シンドラー「ユダヤ人はそれを恐れるのか?」
ゲート「我々の“殺す力”を恐れてるのさ。」
シンドラー「そう。 “理由なく殺す力”をね。 犯罪者を死刑に処すと気分がスッキリする。 自分で殺せば更に気分がいい。 それは“力”じゃない。 それは“正義”で“力”とは別のものだ。 力とは。 人を殺す正当な理由がある時に殺さないことだ。
ゲート「それが力?」
もう一つが、映画の題名にもなったリストを作成する前夜のシーン。アウシュビッツへの移送が決まった直後のユダヤ人会計士イザック・シュターンとの対話。
シンドラー「聞いたか?」
シュターン「ええ。 これが閉鎖命令です。 皆を送り出し私は最後の汽車で…」
シンドラー「それを言うな。 ゲートに よく頼んでおいた。 君に特別待遇を与えるように。」
シュターン「あそこの“特別待遇”には 恐ろしい意味があるそうです。」
シンドラー「じゃ“優先待遇”と。 新語が必要だ。」
シュターン「まったく」
異常な世界は突然現れるものではなくて、いつのまにか日常の中に入り込んでくる。そこに気が付かなければ同じようなことは繰り返されるだろう。イスラエル建国以降のパレスチナ人の虐殺はそのことを良く表している。
地方局ドラマの佳作 ― 2020年03月10日 09:08

カミさんが、無聊を慰める為に、昔読んだ漫画の文庫本を書棚の奥から引っ張り出して読んでいる。しかも、既に同じシリーズの二回り目(再読)に入った。佐々木倫子の『動物のお医者さん』。北海道の大学獣医学部を舞台にした作品でドラマ化もされている。チョビと名付けられたシベリアンハスキー犬とその飼い主が主人公だが、周りを取り囲む普通でない脇役連中を相手に、“平熱”が故に翻弄される彼らの姿が実に自然に描かれている傑作だ。
昨年暮れ、その原作者佐々木倫子が描いた別のシリーズ『チャンネルはそのまま!』が、北海道でドラマ化されていて、2019年度日本民間放送連盟賞のテレビ部門でグランプリに輝いたと知った。年明け、制作したHTVの所属する全国ネット系列で再放送されたのを録画して視聴した。低予算で作られる地方局制作のドラマが高評価を得るのはなかなかに難しいところだが、“地方”であることに着目しながらも、どこにも通ずる“人並み”ゆえの“可笑しみ”をとても丁寧に作っている。もちろん、それはしっかりした原作があってのことではあるが、中央への一極集中による無個性で何の取り柄もないキー局の情報バラエティへの“批評”にもなっている。ドラマの再々放送予定は今のところないようだが、原作漫画の方が何倍も面白いので、未見の方は是非この機会に。
昨年暮れ、その原作者佐々木倫子が描いた別のシリーズ『チャンネルはそのまま!』が、北海道でドラマ化されていて、2019年度日本民間放送連盟賞のテレビ部門でグランプリに輝いたと知った。年明け、制作したHTVの所属する全国ネット系列で再放送されたのを録画して視聴した。低予算で作られる地方局制作のドラマが高評価を得るのはなかなかに難しいところだが、“地方”であることに着目しながらも、どこにも通ずる“人並み”ゆえの“可笑しみ”をとても丁寧に作っている。もちろん、それはしっかりした原作があってのことではあるが、中央への一極集中による無個性で何の取り柄もないキー局の情報バラエティへの“批評”にもなっている。ドラマの再々放送予定は今のところないようだが、原作漫画の方が何倍も面白いので、未見の方は是非この機会に。
コーヒーの日々 ― 2020年03月12日 09:10

出かける予定が軒並み中止となるので珈琲を飲む量が増えている。普段は2週間で300g程度の消費量が、今は500gぐらいだ。豆はスティックジッパーで閉じたまま廊下に保存。飲む直前にミルで中挽きにして、ハンドドリップで二人分を抽出する。駅近くにロースターがあるので5種類を全て100gずつ買えるのは本当にありがたい。
エルサルバドルのシベリア農園(やや浅煎り)…大粒のバカマラ種。フルーティな優しい味。
グァテマラのトラベシア農園(深煎り)…コクと酸のバランスが絶妙。安定した味わい。
インドネシアのリントン・ニフタ地区(深煎り)…いわゆるマンデリン。独特な香味。
ブラジルのマカウバシーマ農園(中煎り)…ナッツ系の代表格。オレンジ系の酸もあって飽きない
ケニア・ニエリのギチャサイニ農園(浅煎り)…花の香りのような華やかな酸味がおいしい。
コーヒーは気持ちを落ち着かせてくれます。ディストピア小説のような世の中を日々過ごすための格好の飲み物です。
エルサルバドルのシベリア農園(やや浅煎り)…大粒のバカマラ種。フルーティな優しい味。
グァテマラのトラベシア農園(深煎り)…コクと酸のバランスが絶妙。安定した味わい。
インドネシアのリントン・ニフタ地区(深煎り)…いわゆるマンデリン。独特な香味。
ブラジルのマカウバシーマ農園(中煎り)…ナッツ系の代表格。オレンジ系の酸もあって飽きない
ケニア・ニエリのギチャサイニ農園(浅煎り)…花の香りのような華やかな酸味がおいしい。
コーヒーは気持ちを落ち着かせてくれます。ディストピア小説のような世の中を日々過ごすための格好の飲み物です。