うなる「ぽんぽこ」2018年08月05日 14:25

朝から暑い日にも少し慣れてきたのか、それとも寝不足で頭がボーッとしているせいなのか、路面の照り返しを受けながらも目的地に向かう足取りそのものは軽かった。浅草木馬亭で開かれる奈々福さんの「おはようライブ」は4ヶ月ぶりになる。今回は新作のネタ下ろしではなく、9年前に作って一度は掛けたこともある「平成狸合戦ぽんぽこ」だった。もちろん、あのジブリの高畑勲監督の原作を脚色したものだ。
 “追悼の気持ちを込めて”とチラシにあるが、高度成長期を描いた24年前のアニメーション作品、それを9年前に取り上げ仕立てた浪曲に、現代にもつながる多くの要素が含まれているのを再認識したことも、再び光を当てた大きな理由だったようだ。ツイッターのつぶやきにその様子が現れている。
 ただ、実際に聴いてみて良くわかったことは、これはまぎれもない浪曲だったということだ。もちろん、見事な口演だった。この新作のいたるところに、語り芸の“技”と“工夫”が仕掛けられている。それは「次郎長伝」の抜き出しを語るという単純なことではなく、様々な節や啖呵の工夫によって、あの狸の物語が見事に立ち上がっているからだ。誤解を恐れずに書いてしまえば、奈々福さんが女流浪曲師には珍しい関東節の“唸り手”で、豊子師匠の三味線がその魅力を倍加していることと深い関係があるのかもしれない。
 このネタはしばらく続けるらしい。繰り返し語ることで、新しい「古典」とでも呼べる豊かな物語になる気配が感じられる。また、聴いてみたい一席である。