浪曲三昧2017年05月06日 17:44

 若い頃から祝日は休日出勤となることが多く、いわゆる“GW”に出かけることは少なかった。もともと出不精で、何より人混みがきらいだから、この時期の外出にはつい二の足を踏む。それでも出かけたのは、どうしても聴いておきたい口演があったからだ。
 浅草木馬亭は毎月最初の7日間に浪曲の定席がある。12時15分から始まって16時頃まで、通常は様々な流派の演者がかわるがわる交代で高座を務めるが、5月5日は、今年で没後10年になる二代目福太郎の弟子を中心に、浪曲全てを玉川一門で演じて故人を偲ぶという番組だった。入門してわずか3ヶ月足らずで師匠を失った太福に始まり、ぶん福、奈々福、こう福、福助という5人の直弟子たちと、トリを務めたイエス玉川(福太郎師匠の兄弟子)で、新作と古典を都合六席聴いた。生で聴くようになって未だ1年にも満たないが、浪曲の面白さが確かに分かり始めている。特に奈々福さんとその弟弟子太福さんの口演は折に触れて聴き続けるつもりだ。
 ところで、浅草寺とは反対側の六区通りから通ずる参道前に、一昨年の暮れ、「まるごとにっぽん」という商業施設が生まれている。全国各地のグルメやら工芸品を一同に集めた観光スポットである。祝日とは関係なく普段から訪れる客が多い浅草で「地方創生の拠点」を目指して作られたというが、消費と観光に重点が置かれた現状は“旅気分”を醸し出すのが精一杯というところだ。浪曲もその一つである伝統文化そのものの担い手を本気で育てることを考えない限り構造的な社会縮小に対応する新しい未来像は描けない気がする。兵器産業を潤すためにミサイル防御(?)に使う予算があったら、もっとできることはいくらもあるだろうに…。
 ちなみに木馬亭は、都内の他の寄席同様に座席で食事もできるので、昼前に着いた私はこの施設の1階にある「壱 ichi」というパン屋で米粉パン(焼きそばとハムカツ)を買い、地方創生の一助とした。何のことはない。パン屋も“にっぽん”の一つではないか。