大地の子という記憶2021年07月28日 18:45

朝から晩までひっきりなしに続くスポーツ中継の合間を縫って、あるドラマが再放送されている。日中共同制作のドラマ『大地の子』。放送70周年というより敗戦から半世紀にあたる1995年に制作・放送された全7作を11本に再編集したものだ。遡る1980年代には、NHK特集『再会』など満州開拓団の戦争孤児を追ったドキュメンタリーも放送されていたが、このドラマの放送時の反響は大きかった。
 原作は山崎豊子の同名小説だが、脚本を書いたのはNHKのディレクター岡崎栄氏。あの歴史ドラマ『天下御免』のチーフ演出だった人である。私が映像調整の仕事に携わり、ドラマ部の居室を訪ねるようになった頃から、いつかは一緒に仕事ができればと考えていた人だった。『大地の子』が制作されていた当時、ドラマ制作でも外部発注が進み、この番組の担当も各関連団体のスタッフであったが、たまたま同時期に出向していた私も“映像技術”を担当する可能性はあった。しかしながら、新しい設備の導入に忙しく、夢は実現しないまま、優秀な後輩と完璧な先輩の仕事を時々覗くだけに終わった。
 ドラマでは、身勝手な国家の方針により振り回された日中双方の人々の姿をいろいろと描いているが、その中で主人公である陸一心が、文化大革命の嵐による冤罪で寧夏の労働改造所からさらに辺境の内蒙古へと流された時、草原で出会った同じ囚人の華僑から「祖国の言葉や民族を知らないのは大変な恥だと思う」と諭されるシーンがある。しかし、本来の母語を奪われる境遇に彼を置いたのは、他でもない帰属していた日本という国そのものだ。だからこそ、彼は母国に帰らず「大地の子」として大陸に生きることを選んだ。
 実は、我が家にはカミさんが買ってきたカエルの大きな縫いぐるみがある。その“Made in China”の製品を、今でも私は「大地の子」と呼んでいる。このドラマが忘れられないからである。

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