はちどりの予感2020年09月18日 14:19

7ヶ月ぶりの映画館はガラガラだった。横浜駅にほど近いシネコンの500席を超える一番大きいスクリーンで観たのだが、入りは2%ぐらいだっただろうか。エンドスクロールが終わるのを待てずに立つ人もいるので、本当のところはわからないが…。6月に公開されたロードショーが今月一杯で終わりとなる最後の興行だったからかもしれない。『はちどり:벌새』、14歳の少女が主人公の韓国映画である。
「はちどり」と言えば蜂のような小さな身体でホバリングしながら花の蜜を吸う鳥だが、可憐に見えて、その実、精一杯にわずかな“蜜”を糧に生きようともがく姿を連想する。舞台はドラマ『応答せよ』シリーズにも取り上げられた韓国の高度成長後期にあたる1994年のソウル。経済政策のグローバル化に沿って大学進学率が急激に上がった時期に当たる。“ソウル”大学を目指す男子が何事にも優先される学歴社会にあって、中学2年生の次女が置かれた家庭内での立場は、来月日本でも公開される『82年生まれ、キム・ジヨン』と酷似しているに違いない。その心の揺れを誰が知るだろうか。漢文塾の一篇が示している。
本作では、漢江に架かる聖水(ソンス)大橋崩落後に届けられた主人公への“便り”が、彼女の将来にかすかな懸念を抱かせるかのように終わっているので、主人公のモデルの一人でもある年若い女性監督自身が今どのように生きようとしているかにきっとつながるのだろう。それにしても次々と素晴らしい演技力ある若手が出てくるものである。一つには、様々な場における真っ当な“物言い”が、下らないネタに貶められるような社会ではないということが分かる。その確かなリアリズムが韓国映画を豊かなものにしている。
映画のメインビジュアルに使われているスチールは、ある“途切れたメッセージ”を見ている顔である。ストーリーとは直接関係のない地元市民の開発反対運動が、「不条理」に翻弄される主人公に何らかの“予感”を与えたのかどうか。その答えは観客に委ねられている。