寺子屋で韓国の芸能を知る2020年01月21日 22:52

今週末の第8回天籟能に向けた「寺子屋」が広尾東江寺で開かれた。前回の15日はKAATの『NIPPON・CHA!CHA!CHA!』とぶつかってしまい泣く泣く欠席したが、今日は万難を排しても参加するつもりで、いつもより少し早めに訪ねた。今回はワークショップというより解説と上演の組合せだったが、これが期待をはるかに上回る充実ぶりで驚いた。僥倖である。以下配付資料とメモから紹介する。
 まず、歴史学者の保立先生のお話は、韓国に残る古代百済の井邑詞(チョンウプサ:정윱사)の紹介から始まった。9月に上演予定の多田富雄作『望恨歌』の基調を示す詞章だという。内容は、夫の帰りを待つ妻の祈りのようなものである。百済の歌謡は日本に伝わり、足を踏み鳴らす踏歌と呼ばれる一群の節となった。それは稲作行事などで集団が行う舞踏にもつながり拡がって、いわゆる歌垣(かがひ)とも重なる。200人を越す歌垣も行われ、そこから田楽や神楽・今様などにも展開したし、「能」へとつながる基盤にもなった。野山での芸能は盆踊りの原型ともなり、満月の下で踊る“月迎え”の祭りが男女が出会う機会を作る。8月の十五夜儀礼にみられる要素は日韓で酷似している。韓国では秋夕(チュソク:추석) の満月祭が後に農楽へと深化する。日本では「竹取物語」にも歌垣に関連した話がある。各地の伝統芸能が危機にある中で、共通の源から発展した日韓の芸能交流は、復活や継承を豊かにすることになる。
 続いて、25日の『賀茂』と9月の『望恨歌』でもシテを勤める清水寛二氏による謡の披露。『望恨歌』の簡単な紹介の後、詞章の一部を謡った。今までにポーランドほかでも部分的に謡ったことがあるという。切々たる思いが直接身体に伝わってくるような見事な謡であった。9月の本舞台が今から楽しみだ。
 休憩を挟んだ後半は、韓国農楽の紹介と実演。国立民族学博物館の神野知恵氏と打楽器演奏者の崔在哲氏。神野氏は2006年に梨花女子大への交換留学時に農楽と出会って以来、研究を続けている。スライドで概要や楽器構成、芸能形式などを示しながら、取材映像による実際の行事も紹介した。農楽は“プンムル”や“クッ”とも重なる芸能で新年の門付け芸としても良く行われる。崔氏からは、杖鼓(チャング:장구)の桴(ばち)が竹の枝と根という地面を挟んだ上下の素材で作られ高低の音が人を真ん中に循環する楽器であることや、農楽の基本的なリズムが一年の季節の農作業の移り変わりを採り入れた構成(起承結“解”)の説明があった。最後はお二人によるケンガリとチャンゴによる演奏。東江寺の本堂は銅板を入れた窓で遮音しているとのことで、舞台一杯に繰り広げられる農楽は迫力満点だった。
 25日の国立能楽堂に期待が増すばかりである。皆さんもよろしければ、まだ間に合います。