言葉による可視化の試み2017年11月11日 11:16

 勤めていた時は設備の調査・提案などもしていた関係で、業界が行う新製品の展示会などに行くことは多かった。その頃は大型の展示ホールがある幕張や晴海などへも半日がかりで出かけたが、元々人混みが嫌いなせいもあって退職後はほとんどない。だから今では、ブースを廻るためではなく何らかのフォーラムを聴講するためにだけ行く。
 パシフィコ横浜(なんと言いにくい名前を付けたものだろうか・・・ パシヒコ?、パシッコ?)は久しぶりだ。午前中の留学生への日本語レッスンを済ませ、コンビニのおにぎりを頬張ってから会場へ向かう。3日間開かれていた「図書館総合展」の最終日。「読書と本の楽しさを伝える新しいツール」という有隣堂主催の講演を聴いた。
 「パターン・ランゲージ」という言葉がある。ある建築家が提唱した“知”の記述方法だ。街や建物に共通して現れる関係性を「ことば」として共有できないかという発想から生まれた。たとえば「小さな人だまり」・「座れる階段」など単語の組合せによって専門家の暗黙知を可視化し、多くの関係者が参加できる設計につなげようというものである。
 その「パターン・ランゲージ」を様々な創作活動へ利用・展開している慶應大学SFC(井庭研究室)が、有隣堂と共同で「読書」という行為に着目した「ことば」作りに取り組んでいる。それを「Life with Reading」と呼び今回初めて概要を一般公開した。簡単にまとめれば、読書離れが進んでいる理由の一つに、その行為を取り巻く共通の言葉がない。つまり読書に関する話題をつなぐためのコミュニケーション・ツールを創ってみたということだ。
 具体的には三つの違ったアプローチからなる27個の言葉がある。講演した井庭准教授は大いに広めて欲しいということだったので、この際全部紹介する。
・読書のコツ(Pattern Language) ラフに読む 自分なりの書き込み 好きな読み方 本との先約 自分にとっての価値 まわりを巻き込む 本の中のリンク 感覚が近い人 自分の本棚
・読書の楽しみ方(Fun Language) 本への愛情 こだわりの発見 とっておきの場所 なじみの本屋 本の散策 今日のお供 追っかけ読書 本がきっかけ 本のある生活
・創造的読書(Concept Language) 発想の素材 スタイルの継承 勇気の源泉 別の可能性 本のデザインから 考えの型 つくる人生 世界の流れ 未来のかけら
 乱読のうえに活字中毒傾向もある私などは上記“ランゲージ”のかなりの項目について感じたり、考えたりしたことがあるが、こうして並べられたものを見てみると「読書」への話題の糸口がたくさんあることを実感させられた。インターネットを中心に情報が双方向に流れるようになったけれど、温めた牛乳の薄膜みたいにかぶさるものがあって、本来は他者と自由に交わすための会話が直接味わえなくなっている。その薄膜を剥がすようなエネルギーがこうした共通言語に隠れているようで、それなりに長い時間をかけて検討された“コトバ”たちであることが良くわかった。
 フォーラムでは、前の二つのアプローチを使って近くに坐っている人とコミュニケーションをとるというワークショップがあり、前列に坐っていた慶應藤沢キャンパスの図書館関係者の皆さんと楽しく語らうことができた。

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