ドラマが時代に語るもの2016年03月18日 23:18


 その昔、まだテレビドラマの映像技術に携わっていたころの話だが、ちょっと気になって見る他局のドラマのスタッフロールで頻繁に目にする名前があった。おそらく似たような業務を担当するのであろう“ライン編集”というスタッフを意識していたからだ。“I”氏という。主にフジテレビ(共同テレビジョン制作)のドラマを担当していた技術者だ。当時も今も面識は無いが、狭い業界で同時代に素敵な番組に関わっている人として眩しく見えた記憶がある。

 彼が担当したものの一つに「王様のレストラン」というドラマがある。実は昨年末、カミさんのリクエストで隣町のリバーサイド(^^;)にあるイタリアンレストランのクリスマスディナーを食べた。年に一度あるかないかというフルコースに十分満足して家に帰った翌日、何気に新聞の週刊番組表を眺めていて“レストラン”という文字を見つけた。20年近く前に放送された三谷幸喜脚本のドラマだった。同時期に「古畑任三郎」という大ヒットした刑事ドラマもあったが、その陰に隠れてしまうことなく当時から知る人ぞ知る名作という評判を得ていたものだ。

 舞台はレストランのみ、レギュラー出演者全員を店のスタッフという設定にした一種のシチュエーションコメディなのだが、毎回冒頭に出る“サラゲッタ”なる架空の人物の成句を副題にほぼ一話で完結する。そして、最後には必ず次の展開を匂わせて「それはまた別の話」と言って終わるという仕掛けだ。もう何度目の再放送だったのかはわからないが、1月4日から始まって先日終了した。三谷幸喜という人は群像劇を書くのが一番上手だと私は考えるが、その最良の一つであるとも言える。実際、DVDのネット通販でも作品の評価はとても高い。

 ただ、その評価はさておき、この作品が当時から広く受け入れられた理由の一つには、1995年という年が大きく関係しているように思えてならない。この年、1月には阪神・淡路大震災、3月には地下鉄サリン事件という社会全体に大きな衝撃を与える出来事が起きた。当たり前の日常が突然揺り動かされ、大変な被害を伴う事態に直面することがあるということに呆然とした覚えがある。そんな出来事の後だったからこそ「La Belle Équipe」(良き仲間)という店名や、レギュラー陣を誰一人欠くことなく毎回ドラマを構成していたことなどが、単なる偶然のようには思えない。ドラマのBGMには「勇気」と名付けられた曲目さえある。

 ドラマは「この物語はフィクションです。登場する団体、名称、人物等は実在のものとは関係ありません」のようなクレジットを出しながらも、その時代の何かを反映している。今、この番組が再放送されるということに特別な意味があるかどうかはわからないが、大変な“移行期”に入っている時代に向けたメッセージをそこから勝手に読み取ることはできる。「クローズアップ現代」が“終わる”など春の番組改編で大きく様変わりするだろう報道番組への危機感に対して、ドラマ制作者はどのような扉を開いてメッセージを出していこうとするのだろうか。

 実は、明日3月19日(土)からNHK総合で始まる「精霊の守り人」は、20年以上前の一時期、一緒に仕事をしたことがあるディレクターの企画・演出だ。上橋菜穂子の作品では「隣のアボリジニ」や「狐笛のかなた」など傍流ばかり読んできた私だが、ようやく「精霊の守り人」も少し前から読み始めた。楽しみにしている。