見えないモノを探す2021年07月31日 18:46

先週から始まった奢侈スポーツ大会でメディアが狂騒状態になっている。そもそも、テレビはいくつかの番組を録画して視るだけだが、新聞のテレビ欄を眺めるだけで既に食傷に陥ったような気分になる。そういう時、自分のペースを取り戻せる読書は貴重だ。時に、少し目を細めて想像の世界に浸ったりする。その点、最近読んだ本の中で格好の導き手に出会ったので書き記しておく。
 『見えないものを探す旅』(亜紀書房)。1999年から10年間刊行された「DEN」という能の小冊子に掲載された能楽師安田登さんの文章をテーマ別に編んだものである。書名の通り、旅の話が多い。それは、安田さんがワキ方であることと繫がる。能の演目には、いわゆる「複式夢幻能」という呼ばれる形式が多い。それは、その地に残る念(おも)い、つまり“残念”の正体を見出して慰霊する物語である。だから、諸国一見の僧や流れものなど、ワキ方は外部からの訪問者を多く演じる。そして、異界に遭遇する。つまり“見えないもの”を可視化する役目だ。
 他にも、能の影響を受けた文学、能に関わる日中の古典など、“見えないもの”への出会いを様々に表現してきた先人の話が多い。昔から、空想癖(妄想癖?)のある私などでも想像できない幅広い異界への関心がそこには綴られる。はるか昔から、人々は“見えないもの”を目という感覚器官を使わずに見てきた。ただし、その為には“長い”時間と経験を必要とする。刹那的に生きる現代にあって、それを意識的に取り戻すような暮らしこそ、今求められているのかもしれない。
 膨大なメモを取りながら内容についてはほとんど触れなかった。まとめることを峻拒するような不思議な本である。連載の残り半分を出す予定と聞く。現世を離れる機会がまた来るということでもある。

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