世界はいろんな色をしている2023年12月10日 22:18

昨日、東神奈川にあるカナックホールで「となりに住んでる世界のひと」と題した講演を聴いてきました。神奈川区の読書活動推進の施策に呼ばれたのは文筆家・イラストレーターの金井真紀さん。一度見たら忘れない。何というか温かみのある穏やかで印象的な筆致のイラスト入り著作を次々に発表している方です。
 冒頭、訪ねたばかりのイランの話から始まりましたが、相撲やサッカーを始めとして、関心の赴くままに海外へ取材を重ねる中から、様々なテーマ毎に出会った人々ひとりひとりの話を聞き書きする仕事が多くなったようです。”好奇心があちらこちらへ跳びながらも、同じ地平で共感しているうちに、いつのまにか人のつながりができあがってきたという感じで、それは、いわゆる「人脈」と呼ばれるようなものとは大きく異なります。そこにはゆったりとした人間関係を紡ぐ時が流れています。以前、テレビ番組の構成作家をしていた時代に経験した多忙な時間とは異なるようで、思わずそのことを質疑応答の時間に尋ねてしまいました。
 昨年末、生活実用書を多く出版している大和書房から刊行された『日本に住んでる世界の人』は、今回の演題にもつながる、その名の通りの著作ですが、軽やかでありながら難民・移民問題の特徴が多様に浮かび上がる不思議な本です。閉会後、ロビーでお見かけしたので場所柄もわきまえずサインをしていただきました。書いて下さった「世界はいろんな色をしている」という言葉。日本語ボランティアの現場で日々感じることの一つでもあります。

玄関先のカブトムシ2023年07月29日 20:47

朝、古紙とプラスチックをゴミ捨て場に置きに行った帰り、玄関ドアのすぐ前に黒い物体が落ちているのを見つけました。とば口だったこともあって、出るときは気が付きませんでしたが、何やら大きな虫のよう。なんとカブトムシの雄です。
 近くに林もなく何故こんなところにいたのかはわかりません。酷暑に耐えかねて方向感覚が狂ったか。おかしな世の中に虫まで同調したのでしょうか。ともかく、拙宅で一休みしてもらい、残り物のキュウリを出しました。
 その昔、赴任先の九州佐賀のアパートにもアマガエルがやってきたことがあって、東京へ帰任した時も引き続き飼っていたことがありましたが、“生きもの”の面倒を見るのはやはり大変です。早々に新たな居場所を探してもらうべく、散歩がてら、丘の上の大倉山公園に移ってもらうことにしました。鬱蒼というにはほど遠い場所ですが、セミの鳴き声も響く涼しげな林の一角にある木の裏側に留まらせて戻ってきました。
 一休みして開いた今朝の朝刊には、『風の又三郎』を『又の風三郎』と間違って覚えていたカブトムシの斎藤さんが登場。そうか、あのカブトムシはもしかしたら斎藤さんだったのかもしれません。

無常への憧憬?2023年05月24日 19:38

このところ心が少しずつ沈んでゆくような感覚が続いています。元々、物事をやや悲観的に見がちなところはあるのですが、ここまで社会が劣化・衰退していく状況を見るのは生まれて初めての経験なので、まだ身体が慣れていないのかもしれません。そんな時、実は自分の好きなものの多くが「無常」観とつながっているのを改めて意識することになりました。
 たとえば、小説であればディストピアSFや船戸与一・飯嶋和一などの作品に強く惹かれます。音楽は民族音楽やブルース・琉歌・モリコーネ。それにニキータ・デービスが唄いカレン・カーペンターや石嶺聡子らがカバーした「The End of the World」も好きでした。漫画ならカムイ伝や無用ノ介・童夢・ナウシカ、映画で言えば、ジュゼッペ・トルナトーレの作品群。西部劇でも繰り返し観たのは『Once Upon a Time in the West』と『Dances with Wolves』。ドラマでは向田邦子と三谷幸喜脚本の一部、韓国関連では「イ・サン」の主人公正祖に詩人尹東柱など。
 それらは、なぜか、滅びたり失われたりするかも知れない世界へ立ち会うことへの少し拗れた“憧憬”のような想いを起こさせるのです。もしかしたら、カルトとヘイトに侵されたこの時代の方がようやく私に追いついてきたのか。時々そんな不遜なことを考えてしまいます。^^;

一ヶ月のまとめ2023年02月27日 18:53

1月16日以来、映画祭の案内を除き、ほぼ一ヶ月ほど投稿らしき文章を書く気が起きませんでした。その間、日本語学習を支援している留学生や外国人との会話といくつかの出来事が、この異様なあり様の国で生きていることへの失望から救ってくれたような気がします。
 一言で云えば、それは“真っ当”という言葉で表されるようなものです。テレビやネットを始めとするメディアで取り上げられることもなく、日々の営みを普通に、それでいて“真っ当”に生きている人々に出会う機会が多くありました。以下、時間順にまとめておきます。長文メモ。^^;
 放送大学の入学案内を兼ねたオンラインの講演を聴講。光文社の古典新訳文庫『ちいさな王子』(サン・テグジュペリ)の訳者野崎歓氏が原作の真骨頂を解説しました。戦時下に書かれた物語は支配や所有の貧欲にまみれた“大人”と小さき物を代表するキツネの対比を通し「大切なものは目に見えない」と問いかけています。
 中国に帰国した元留学生とZoomで会話。お互いに国のコロナ禍政策に翻弄される中、二年ぶりの対面で元気そうな姿を見ることができました。日本への再訪を望んでいます。
 大倉山に引っ越して以来、四半世紀にわたってお世話になっていた歯科医へ継続治療で最後の通院。この春に廃業されるので今後の当てを紹介していただいたところ、何と、目と鼻の先にある歯科医院でした。診療台に座っても安心して委ねられそうです。
 妙蓮寺の本屋・生活綴方で「よるべの会」。参加者が好きな詩を持ち寄って披露するというもの。4年目を迎えた小さな街の“書肆”で後述の詩人の会を紹介しながら詩を朗読しました。人前で読むのは、ピースボートの船上企画と横浜シネマリンでのアフター朗読会に続いて3回目。岩波文庫の『空と星と風と詩』は金時鐘さんの訳とハングル原詩が併載されています。
 センター北にある横浜歴史博物館で紙芝居の講座を受講。実演も交え、その歴史を振り返りながら公的施設での継承について現場の責任者が語るというものです。戦時中のプロパガンダに使われた事情も隠すことなく、地域の民話を取り上げる新しい試みを伺いました。
 毎年この時期に池袋のチャペルで開かれていたイベント「詩人尹東柱とともに」は、3年ぶりにオンラインでの公開講演会。録画再生の追悼礼拝式に続き、韓国仁川在住の戸田郁子さんが「尹東柱の故郷・間島を語る」と題したZoomウェビナーで話しました。以前チェッコリでも直接目の前で聞いたことがありますが、豊富な調査資料に基づく確かな視点での解説は大変素晴らしいものです。間島という地域の特殊性が詩人を生んだ背景が大変良くわかりました。
 充電の調子がおかしかったスマホ(iPhoneSE第一世代)のバッテリー寿命が尽きて、横浜駅まで交換依頼に赴きました。“正規”修理店では価格も高く納期も長いうえ、新品購入を勧められる始末なので、補償切れを承知でWebで検索した信頼できそうな民間修理店にお願いしました。修理費用が正当な値付けで、説明も的確な某店で15分もかからずに無事復帰しました。
 そして、一昨日は久しぶりの浅草木馬亭。前回が玉川福太郎13回忌の追善興行で今回は大利根勝子さんの引退興行。会を取り仕切った奈々福さんが引いた「たいていの事は経験した」という勝子師の言葉に裏打ちされた「人が人を思う心」を歌い上げる浪花節の真髄を拝聴しました。それは、偏狭な唾棄すべき言辞で若者をたぶらかすインフルエンサーが足元にも及ばない言葉です。

Web版年賀状20232023年01月08日 18:42

松の内が明けたので、昨年同様に年賀状の画像をアップします。ご笑覧下さい。