述志の詩2021年04月14日 11:26

週明けの三日間、ひたすら書写いや“打写”を行っていた。1980年代の韓国現代詩を訳してまとめた『韓国現代詩選』。訳編者は詩人の故茨木のり子である。詩誌で知られた花神社から刊行された本書は新装版を含め絶版であり、古書はどこでも“超”高値で出ている。幸いなことに横浜市内の図書館には複数在庫があって、予約すればごく短い期間で届く。だから、繰り返し借りれば済むわけなのだが、このところ幕末の大河ドラマを観ていたせいなのか、書き写すには及ばないが、わけもなく“打ち写して”みたいと考えた。
 その昔『12人の怒れる男』という今なら考えられない男性優位の映画があったが、このアンソロジーは採り上げている12人中4人が女性である。初版が出たのは30年前だから、まだ詩人の説明欄に「女流詩人」という言葉が使われていた。80年代の韓国と言えば光州事件に始まり全斗煥政権下で言論弾圧の暴風が吹き荒れていた時期である。その中で書かれた詩は、当時の社会と付かず離れずに“個”を貫こうとした詩人たちの想いの結晶にも思える。それは、あたかも植民地下でハングルによる詩を書き続けた詩人たちに連なる行為にも感じられた。
 そして、もう一つの特徴は、茨木のりこが「あとがき」で書いている次の一節が物語っている。
「隣国のひとびとの詩を好むこと尋常ならず。
 日本で詩と言えば、俳句、短歌、自由詩と分散されてしまっているが、韓国では目下、自由詩一本槍で、ひとびとの情感の飢えを満たすものとして、また述志の形式として欠くことのできないものなのかもしれない」
 韓国ドラマ『成均館スキャンダル』で“コロ”が朗誦する丁若鏞の詩がまさしく“述志”の詩であった。今ミャンマーでも、あの独特なビルマ文字を使った“述志”の詩が書かれているのだろうか。

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