仮面の踊り念仏2023年11月04日 22:09

小夏日和の三連休初日に東海道線で藤沢まで出かけました。訪ねたのは旧街道に面した時宗総本山遊行寺です。「踊り念仏」で有名な一遍上人ゆかりの寺はその奥に長生院という支院があり、有名な説経節「小栗判官」に出てくる照手が草庵を結んだと言われています。
 今回、その縁もあってのことなのでしょう。敷地の中央にある木造建築の本堂で、横浜ボートシアターによる仮面劇『新版小栗判官・照手姫』が上演されました。劇団の前代表で三年前に亡くなった遠藤啄郎氏による脚本はこの劇団の代表作でもあり、新たな演出を加えた追悼公演となっています。実は、41年前の1982年5月、ボートシアターの名の通り横浜の中村川に浮かぶ船劇場で上演されたこの演目の初演を私は観ています。その前年川崎で開かれたAALA文化会議の関連イベントとして上演された劇団の旗揚げ公演『やし酒のみ』に続く第2回は、船上という新たな空間で開かれたのです。その頃、伝統芸能のことはほとんど知らなかったのですが、たまたま出会ってしまった仮面劇の世界によって古典演劇への関心を拡げる機会になりました。
 “新版”に特徴的だったのは身体全体を使った表現が増えているように見えたことです。元々舞踏会の仮面のように口元しか出ないので、目が隠れて顔の表情による演技は半減します。それだけに手足を使った踊りの要素を全面に出しながら、民族楽器の演奏とも相俟った躍動的な舞台になるのですが、それが一段と強調されていたように思います。もちろん、寺の本堂は客席も平場なので、同じ平面上で動きが無いと表現が平板に見えてしまうのかもしれません。芝居の内容は“説経節”だけに地獄の閻魔様から藤沢の上人、関寺、熊野権現まで仏教説話の要素が強くありますが、中でも餓鬼阿弥の車を引くために集まった“善男善女”のイメージは踊り念仏に連なる人々のようにも見えました。その意味で、遊行寺本堂という舞台は最も適しているのでしょう。

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