ブラジルのアニメ2017年06月17日 18:05

 最近はもっぱら心覚えのつもりで続けているFacebookだが、書いているうちに関心がつながって新しい興味や発想が生まれることも多い。何より日本語のブラッシュアップにもなるので、学習進度の違う留学生ほか5人の日本語学習支援にも役立つ。本質的にはあまり言葉を信じない質だと自認しているが、あまりにも日常に“うそ”がまかりとおる時代を迎え、ネットを含めた“ことば”への不信は深まるばかりだ。
 だからというわけでもないが、字幕の無い外国製のアニメーションを観てきた。
 場所は南公会堂ホール。最寄り駅は阪東橋だが、市営地下鉄は高いからJRで関内へ出て大通り公園の裏を20分ほど歩く。ひとつには阪東橋駅近くに貼ってある某官房長官の顔を見ないで済むからでもある。
 映画は「父を探して」というブラジルの長編アニメーション。ポルトガル語らしき意味不明の会話がごくわずかにあるだけで、他は犬の鳴き声とSEのみ。音楽はリコーダーやギター、パーカッション、ブラジルらしい賑やかなアンサンブルが使われる。絵はデジタル制作を元に様々な手書きの効果を組み合わせていて80分という長さを感じさせない。冒頭のシーンを始めとして音と絵が相互補完的に織りなす表現が見事だった。
 内容は、原題「The Boy and The World」に象徴されるブラジル人としてのアイデンティティーを描いたものと言えるだろうか。田舎から都会へ出稼ぎに行く労働者。故郷では一人一人違った顔が工場で同じ顔になる。背景には軍部による圧政も描かれる。そこから離れひとり佇む男に探している父を重ねようとするうちに、その男はいつのまにか探しに出た子ども自身となって帰郷する。丸3年を費やして完成したアニメーションはブラジルの時代と社会をつぶさに観察した表現で、一切の解説なしに観る者に説得力を持って語ってくる。
 昨年3月に単館ロードショー館を中心に公開されたようだが、一年後とはいえ、これだけの作品がホール座席の一割ほどしか埋めることができないというのはとても悲しい。もったいない。