期待できない選挙に、それでも行くこと2021年10月28日 19:38

中国に帰国した元留学生とメールの遣り取りをしているが、彼女は上海で日本との繋がりを探して「中日韓英交流会」というイベントに参加したそうだ。国同士の関係は冷め切っているが、民間の交流は細々と続いている。先日放送された『COOL JAPAN』でも外国人が選ぶ横浜の各所に、個人的に馴染みの深い場所が採り上げられていて、コロナ禍が一段落したら留学生を案内したいという思いが募った。
 退職してからの8年間、現政権に繫がる与党や官僚を始めとする社会の腐敗を横目に見ながら、「林住期」とも呼べる期間を多くの外国人と語り合いながら過ごしてきたことで、何よりも自らが住むこの国の言葉や伝統に関心が生まれた。だからこそ、この国が誰かの私腹を肥やすためだけの“草刈り場”になる様を思うと悲しくなる。
 韓国ドラマ『根の深い木』で、ハングルを創製した世宗大王は文字を習得した“民”の行く末に思い悩む。言葉に踊らされる人々への不安を、秘密結社「密本(ミルボン)」の領袖チョン・ギジュンに指摘されるシーンである。“Dappi”にしても、島根1区にしても、言葉の“一人歩き”に翻弄される社会が到来している今こそ、その逡巡の成果が試されるのだろう
 もとより、結果としての開票速報など見るつもりもない。ただ、淡々と投票しに行くだけだ。

いまもむかしも…2021年10月30日 19:40

伊勢真一監督の新作『いまはむかし 父・ジャワ・幻のフィルム』を黄金町の「シネマ ジャック&ベティ」で観てきた。昨日が最終日で上映後には監督からの短い挨拶も聴くことができた。この二年、大倉山ドキュメンタリー映画祭は休止となっており、伊勢さんと会うのも随分久しぶりのことである。
 監督の父伊勢長之助は、戦前インドネシアにおける日本の国策映画製作に従事し、戦後は編集を中心とした多くの文化映画の製作に携わった人である。同じ仕事に就きながら、父子の間には大きな軋轢があったようで、戦前の南洋における映画製作に関わるこのドキュメンタリー映画は、30年という時を経てようやく完成したという。結果として、孫に当たる真一監督の子息も映画制作に参加することとなった。
 映画の折々に差し込まれる真一監督の語りが、次代である子供に向けたメッセージにもなっていて、いわば“家族史”のような作品でもある。しかし、その言葉は複雑だ。一つには、戦前に作られた戦時体制への宣伝映画の多くが、インドネシアの旧宗主国オランダの視聴覚アーカイブに保管されていたことが挙げられる。戦前戦後を通じて生きた日本人の多くが“語らなかったこと”、そして“語ることができなかったこと”の一面を、自国ではない旧敵国が“将来への貴重な記録”として残していた。そのことが、一つの“問い”としてこの映画の基層を貫いているように思う。
 インドネシアの人々を訪ね、その地で働いた“父”という一個人の姿を想い描きながら、“語られるはず”だった言葉のかけらを探して歩くような取材だったのだろう。だからこそ、その題名が「いまはむかし」なのだ。そして、日本人が好きな歌曲「ブンガワン・ソロ」とコーランの響きの間に流れる微かな“相克”が、現地の人々の顔に微妙な陰を残しているようにも見えた。「むかしはいま」と言っているように…。