追善の狂言2023年10月10日 21:36

昨日は千駄ヶ谷の国立能楽堂で狂言「やるまい会」を鑑賞。先代野村又三郎の追善公演ということで、孫の信朗氏の東京初演となる『釣狐』、息子の当代又三郎師の『川上』、野村萬師を迎えての『鉢叩』に加え、信朗氏が東京藝大邦楽科で指導を受けた二名の先達がそれぞれ『融』・『玉の段』を舞いました。狂言の演目はいずれも初めて観るもので、笑いの部分が少なく全体として能にも近いと感じました。ただ、キツネが化けた老人にはその仕草のところどころにふと出てしまうといった“けもの”的な動きがうまく採り入れられていたり、小道具のワナが凝っていて、キツネの装束で餌欲しさに身もだえするところは大変面白かったです。『川上』では盲目の主人公が橋掛かりから杖を突いて舞台に登場し最初は一人語りで進みますが、霊験で開いた目が、夫婦の絆で再び閉じ、愛情深い同行二人で退場することになるのは、非合理という狂言の一世界だと思いました。最後の「鉢叩」は空也上人の踊り念仏を髣髴とさせる演目、9人の僧が手に持った楽器(瓢箪や鉦、竹竿など)を打ち鳴らしユニゾンで謡いながら、リズムに乗って身体を捻り次々と念仏を唱えて踊るという、追善の名にふさわしいもので、野村二家が揃って故人を偲ぶ場に立ち会ったようなものです。野村萬師のお元気な姿を拝見し、面を付けたふくべの神の登場など面白いところも見ることができました。