三味線の音に揺られる春景色2022年04月10日 22:14

都心の桜はとうに盛りを過ぎていますが春の音色を聴きに出かけました。女流義太夫の三味線弾き鶴澤寛也さんが主催する「はなやぐらの会」です。一昨年、コロナ禍で中止となり支払済みの代金も返却された幻の公演がようやく開かれました。
 場所は麹町の紀尾井小ホール。最寄りの四ツ谷駅までは日吉から南北線が通っています。人混みを避けた道行きです。ここは3年前の暮れに忠臣蔵を聴きにきて以来ですが、義太夫語りを聴くのにはちょうど良い大きさで、当初は銀座や新宿の小ホールで始まったそうですが、2009年の第6回からここで行われているとパンフレットで紹介がありました。
 今回の公演は浄瑠璃に親しく関わってきた作家故橋本治を追善する興行です。主催の鶴澤寛也さんにとっての思い出深い作品が採り上げられると同時に、冒頭、その初演時を回顧する橋本治の記録映像を紹介する趣向がありました。橋本治に“近代的”な響きと称された寛也さんの三味線を聴くのは4回目ぐらいですが、義太夫節の新作というのは初めてです。そもそも誰が新作など書けるのだろうかという答えを今日篤と知らされた思いです。演目は「源氏物語 六条院春の道行」。あの窯変源氏物語を下敷きにした掌篇ですが、桜が舞い散る大庭園の池に浮かぶ唐破風の小舟の情景を二丁の三味線が奏でました。途中、左手をひらひらとして打ち鳴らす奏法も出てきて新鮮な驚きもありました。
 ごあいさつがあって、休憩後は追善興行でおなじみの『仮名手本忠臣蔵』から六段の「勘平腹切」。前回聴いた忠臣蔵の演目は事件の発端・展開と結末でしたが、今回は映画やドラマでは採り上げられることの少ない、いわばサイドストーリーです。しかし、『浄瑠璃を読もう』(橋本治著)を読んでいると、“忠臣蔵”という大きな事件にからんで“翻弄される”男女が登場するのは、当時の観客たちが心寄せできる人物造形を戯作の要とした江戸時代の流行作家の発想があったからなのかもしれません。
 そのせいでしょうか。三味線の音色は、いつも琴線に触れます。

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