大倉山ドキュメンタリー映画祭2016年02月03日 00:49

 「あったかく気さくな」

 これが今年のキャッチフレーズです。

 地元の大倉山で毎年開催されるドキュメンタリーの映画祭も今年で9年目。毎回8本前後の秀作ドキュメンタリーを春先の二日間にわたって上映しています。作品によっては映画鑑賞の後に監督挨拶もあり、カフェスペースでの歓談を楽しみに毎年足を延ばしてくれるお客様もいます。

 私も一昨年に初めて参加し有料で2本の映画を鑑賞しました。昨年は準備から後片付けまで全日程にボランティアとして関わり、映画祭にどっぷりと浸かりました。そして、誘われるままに今年は実行委員の一人となっています。^^;

 東横線の駅を出て線路沿いの急坂を登ると小高いの丘の上に公園があり、その中央に映画祭の会場となる大倉山記念館があります。普段の週末は合唱サークルの練習で賑わう館内も、この二日間だけは風情ある映画館に様変わりするのです。流れる映像が現実と並行するもう一つの時間を作り、そこに集う人々を別の世界へといざないます。日常の喧噪と情報の洪水から離れて、“ゆったり”と身体をあずけるようにして観ること。そのための作品が選ばれています。

 今年のテーマの一つは“記憶”。個人や少数のスタッフで対象に寄り添いながら撮影した作品群からは、そこに映る人々の生々しい“記憶”が再現されていくことを感じることができると思います。“ワンフレーズ”からは決して聞き取ることができない“声”を是非受け止めていただければ幸いです。

 私の提案した作品もあります。「オオカミの護符」。川崎の土橋にある土蔵の護符への“問い”から始まって、ニホンオオカミにまつわる文化の古層を訪ね歩く旅です。身の回りのほんのちょっとしたことへの“問い”は、時代にただ流されず、自らの足元を見つめ、みんなが共生していくための“手がかり”となることを教えてくれます。作られた“権威”や“権力”などではなく、共に暮らしていくための自然への“畏敬”の姿をそこに見ることができると思います。お勧めです。

 映画祭の作品鑑賞は予約が優先です。作品によっては当日券が少なくなることもあります。詳しくはリンクを辿って公式ブログやFacebookを是非ご覧いただくようにお願いいたします。

 「映画」は観る人と出逢い、はじめて映画になる…。伊勢監督の言葉です。是非お出かけ下さい。

大倉山ドキュメンタリー映画祭公式ブログ
http://o-kurayama.jugem.jp

大倉山ドキュメンタリー映画祭Facebook:
https://www.facebook.com/okurayamadocumentaryfilmfestival/

残された時間を追うもの2016年02月03日 22:41

 「時間がない…」という言葉に少し息が詰まった。

 発言は映画「花のように あるがままに」に出演した裵梨花さん。今日参加した東京の試写会で上映後に語ったものだ。“不可逆的”などという歴史を顧みようとしない態度濃厚な言葉で交わされた日韓政府間の会談から1ヶ月。その間、早々に“誤解を与える”発言をして“迷惑をかけた”ので撤回したという議員も出たように、現実社会のキナ臭い空気は濃くなる一方だ。“70年”という区切りを最後に、その前にあった様々で不都合な事実を覆い隠そうとする傾向が目立っている。依然として無くならないヘイトスピーチもその一つだろう。

 「時間がない…」。その言葉は、自分の父親が経験した風景を訪ねる旅から得た実感でもあっただろうか。“募集”という名に似つかわしくない強制的な労働環境から脱出した在日1世の父が生きた苦難の時代に、この国はもしかしたら逆行しているのかという危機感が言わせたものかもしれない。300回を超えるという人権教育講演を行ってきた人をして、まだ語り足りないものを、たとえば“蒸し返す”という一言で片付けられるのか。

 赤坂真理が書いたあの「東京プリズン」は誰もが何かを忘れようとしたことへの「問い」から始まっている。それが何かを問おうとしなかった自分への答えでもあった。在日2世としての裵梨花さんの立場は、それとは随分違うだろうが、残された者が解かなければならないと考えた「問い」への強い想いの結果としてであれば、共通するところは多い。「時間がない…」は率直な感想でもあっただろう。ドキュメンタリーとして少しまとまりに欠けるきらいはあるものの、歴史を振り返りながら今につなげようとする気持ちが映画全体に感じられた。

 3月19日から4月1日まで、新宿の「K's cinema」で上映予定です。