“叛史”を伝える人2015年04月23日 20:02

 船戸与一が亡くなりました。日本の冒険小説を質量共に大きく広げ、同時に“叛史”という言葉を遺してくれた作家です。

 私が最初に読んだのは「猛き箱舟」ですが、これが僥倖だったかのも知れません。今でも読者の熱い支持があるように、彼の著書の中では特にドラマチックな展開を存分に味あわせてくれる作品です。自信を持ってお勧めします。^^

 そもそもデビュー作の題名が「非合法員」ですから、船戸与一が書く作品がどのような傾向を示すものかは歴然としていますが、冒険小説の背景や設定が綿密な取材に基づくものであるばかりでなく、“叛史”という視点に立って語られるところに真骨頂があります。もちろん、その多くは無残な死であったり、握りつぶされた革命や失敗した蜂起だったりするわけですが、彼の語り口が示しているのはそれでも続く“叛史”を信じている一種の思想なのではないかと思います。

 旧植民地での民族紛争、冷戦下の第三世界、大国の支配が続く中南米や中央アジアなど、世界を舞台にして書いてきた船戸与一が、「蝦夷地別件」以降、日本国内や東アジアを背景にした作品を次々と出していくことにも関心を持っていました。特に亡くなる前に最終巻が刊行された「満州国演義」は日本の近代の象徴でもある傀儡国家が何だったのかを様々な視点から見直すという大胆な試みでした。我が家には手つかずの九冊の単行本が積んであります。昭和前期の濃密な20年がどのように描かれているのか。そろそろ手にしなくてはならない気がしています。

 こうした骨太な小説を書く作家はもう出てこないかも知れませんね。

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