匂いと声と予感の街2023年12月20日 22:24

コロナ禍で自宅に逼塞していた時期に、なぜか無性に出かけたくなったことがあります。一昨年末に購入して、この欄にも感想を寄せたことがある絵本『海峡のまちのハリル』を読んでいた時です。鉛筆で描かれた単色の絵に光りが溢れているように見えました。それで、太陽の光に当ててみると“銀色”の照り返しが原画のように思えたのです。
 その本当の原画展が、先週末から妙蓮寺の本屋・生活綴方で開かれていて、昨日、絵を描いた小林豊さんの話を聴くことができました。戦後まもなく深川で育った経験が、街の匂いや音のような身体感覚と切り離せない独特の筆触を生み出しているようで、絵本の舞台イスタンブールの街でもあちらこちらを足で歩いて見つけた風景が絵の対象になっています。時に、それは予感に促されることもあるそうです。そして、描かれていない外側には、街をいきいきとさせる子どもたちの遊ぶ声がきっと聞こえているはずです。そうした複雑さが単色の絵に深みを与えているのでしょう。
 うねりのある坂道が気に入ったという妙蓮寺の街が小林さんの絵本の舞台になる日も遠くないかもしれません。