浪曲の名演を聴く2023年01月16日 18:48

韓国語の勉強を始めた頃、韓国の伝統音楽を良く聴きに行きました。四谷の韓国文化院などで開かれる大掛かりな公演だけでなく、ホールや喫茶店などで行われる小さな演奏会にも足を延ばし、サムルノリや農楽、チャンゴ・カヤグム・テグムなど多くの伝統楽器の音に触れましたが、元々興味を持ったきっかけがドラマの中で交わされる言葉の響きだったこともあり、パンソリにも大いに興味が湧きました。遅まきながらイム・グォンテク監督の名作『風の丘を越えて/西便制』を鑑賞したりするうちに、後述する会で、浪曲とパンソリの共演があることを知りました。「列島と半島でそれぞれに成長した、双子みたいな二つの語り芸」を畳敷きの和室で立て続けに聴き比べたことを良く覚えています。浪曲は玉川奈々福さん、パンソリは安聖民さんでした。
 以来、少しずつ伝統芸能の公演を聴いてきましたが、大きな劇場にはほとんど足が向かず、もっぱら少人数に向けた公演を探すことが多いのです。それは、一番最初に聴いた奈々福さんの口演が20名しか入らない喫茶店での一人会だったことが影響しています。気の置けない場所の小さな会だったせいかも知れませんが、この芸能の特徴から歴史の説明に始まり、古典と新作の実演の間には本棚に並ぶ書籍名を連ねて語るアドリブまで披露してくれました。明治維新以後、様々な地方の大道芸が集まって生まれた浪曲・浪花節は、その発生時点から類まれな多様性を持っていたという点でパンソリに良く似ていたのです。
 その多様性の一端を、映像に残された記録で案内するという講座が、先日、国立劇場の伝統芸能情報館で開かれました。ようやく本題です。^^; 「国立演芸場の公演記録映像から…浪曲の魅力をたっぷり紹介」する企画で、解説は映像を選んだ奈々福さんと木ノ下裕一さんのお二人。実は、同日に本館である演芸場の資料室では「浪曲展」が開催されていて、その部屋に設置されたモニターに流れたのも浪曲の名演だったのですが、少しだけ違うのは「浪曲展」の方が「節」を中心に編まれていたのに対し、「講座」で選ばれた口演は「啖呵」の多様さを紹介するものだったことです。
 三味線との二人芸でもある浪曲で注目されるのは、主に、関東節や関西節など歌い上げる部分のバリエーションが圧倒的ですが、実は、物語を運ぶ「啖呵」にも様々な違いがあるということが、実際の映像で良くわかりました。人気絶頂期の記録映像には、名人たちが工夫して作り上げた「啖呵」のバリエーションが見事に残っています。同じ語り芸と言っても、近代化以降の新しい芸能としての浪曲は、先行する多くの寄席芸なども吸収しながら、時代や地域に応じて柔軟な変遷を繰り返してきたのでしょう。ですから、その口演の中には、講談・落語を始めとして河内音頭や多くの大道芸からも吸収した市井の言葉の遣り取りが多彩に繰り広げられます。わずか2時間で「外題付け」5本を含む14本の短い動画を観ただけでもそれは十分に感じられました。おそらく二回目が開かれることでしょう。それほど、素人目にも語り芸のすごさを感じさせる貴重な機会だったと言えます。

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