しかたなくないドラマ2021年09月06日 19:11

いつ頃からか「終戦ドラマ」という言葉がカギ括弧無しで使われるようになったようだが、その一本、先月13日に放送された『しかたなかったと言うてはいかんのです』の14分拡大版がBSで放送された。先月総合テレビを予約録画して未見だったまま、一昨日のテレビ欄でそれを見つけた。
 題名は主人公の言葉、すなわち九州北部の方言である。妻夫木聡と蒼井優という実力も兼ね備えた人気俳優二人が共演して、戦時中の大学病院での捕虜人体実験に関わり一度は絞首刑を言い渡された医師と、その妻を演じる。
 ドラマの元になったのはモデルとなった医師の姪が著した『九州大学生体解剖事件』(熊野以素:岩波書店)。それを劇団チョコレートケーキの古川健が脚本化した。ドラマの題名は、戦後減刑されて開業医を営んでいる老医師のもとに当時の状況を取材に来た記者へ向けた言葉である。
 戦時中の行為という“特殊”な事情を背景にしていることもあり、ドラマの番宣には「人間の狂気と正気を描き出すヒューマンサスペンス」という説明があるが、全編を通して観て私が一番気に掛かったのは「しかたがなかった」という発言である。劇中、この台詞は4回出てくる。最初は医師の父が“嫁”に、次は横浜軍事法廷(BC級戦犯)のアメリカ人弁護士が医師の妻に、さらに大学病院に捕虜を連れてきた死刑囚の軍人が医師に、最後が件(くだん)の取材記者である。この繰り返し出てくる「しかたがなかった」という台詞への答えとして「しかたなかったと言うてはいかんのです」は、ある。
 そのように主人公に語らせることで作者は視聴者に問うている。それは、ドラマの主人公が犯した“特殊”な事情と関係ないように見えながら、戦前戦後を通して生きた日本人が意識から遠ざけているものであり、今また同じ言葉が問われているということでもある。


 一つ大事な事を書き忘れていた。このドラマにも“終戦”時の実写フィルムが一部使われているが、そこに重ねた音はいわゆる“玉音”放送ではなく、それを受けたアナウンサーの報道になっている。あの“玉音”放送が「しかたがなかった」という思想形成に大きく寄与したことは間違いないのであって、それを使うことを良しとしなかったに違いない。つまり、あの“玉音”とやらを繰り返し使ってきた過去のドラマへの問いかけにもなっている。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://amiyaki.asablo.jp/blog/2021/09/06/9426681/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。