追悼 佐々部清監督2020年04月20日 10:52

先週末に亡くなった大林宣彦監督の追悼番組や映画が次々に放映されているようだ。代表作『時をかける少女』が有名だが、『転校生』・『異人たちとの夏』・『青春デンデケデケデケ』など印象に残る数々の作品を世に出した日本を代表する監督であることは間違いないから、その功績に見合った回顧がこれからもしばらくは続くだろう。
 一方で、先月末に62歳の若さで亡くなった映画監督佐々部清の話題があまりに少ないような気がするのは“僻(ひが)め”というものだろうか。横山秀夫原作の『半落ち』や、こうの史代原作の『夕凪の街 桜の国』など、それなりに話題になった作品も手掛けているのだが、いずれも“大作”と言うよりは“佳品”という言葉が相応しいものだけに、職人的な作風が却って多くの人の記憶に残らないのだろうか。もとより、私の情報摂取量は一般より極端に少ないこともあって、単に知らないだけなのかもしれないが、これらの“佳品”を作り続けた監督の急逝が広く悼まれることがなかったら、それはとても寂しい。
 私が佐々部清の名前を意識するようになったのは『半落ち』ではない。同じ年に公開された『チルソクの夏』という、それこそ“佳品”に相応しい映画だった。監督の出身地である下関には隣国釜山との定期航路があり、両市の様々な文化交流の一つとして相互に隔年開催する合同の陸上競技大会があった。その代表選手として大会に出場した日韓高校生の初恋の物語である。戒厳令下の釜山で宿舎から抜け出し、ロミオとジュリエット張りの逢瀬で来年の七夕(チルソク:칠석)に再会を約す。若さを象徴するような4人の女優による陸上競技の撮影が行われると共に、70年代後半の時代を髣髴とさせる背景も描かれた。当時『ジョゼと虎と魚たち』で注目を浴び始めた上野樹里が主人公の親友役で出ている。
 離れたままに思いを伝えるため、互いに隣国の言葉で手紙を交わすことになるのだが、最後は25年ぶりの再会へとハングルで書かれた呼び出しのメモが届く。お互い違う道を歩んだからと言って、心を通わした言葉は残る。そういえば、佐々部清はあの『フォロー・ミー』が好きだったという。コミュニケーションを取り戻そうとする行動はあの映画にも貫かれていた。

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