脆弱化した社会2020年04月18日 10:47

政府が一律10万円を配るという。住所不定のホームレスなど仮に身分を証明できない人には渡らない可能性もある。それでもコロナ“禍”でいきなり収入を断たれた人にとっては喫緊の問題解決につながるかもしれない。それがすぐにでも届くならば…。そして一息ついたらすぐにでも次の手を考えるべきだろう。収入が減らなかったり余裕のある人は、厳しい状況にいる人々を助けるための基金やクラウドファンディングに転用すればいい。政府がそれを“信頼できる”第三者に委ねられるのなら、それはそれでかまわない。“信頼”できるところへ有効に使いたい。
 問題点を挙げればキリがないが、現状で最大の懸案は社会システムそのものが崩壊しないようにするために何をするかだと思う。繁雑でな無駄な事務手続きを減らし、当面の間、社会生活に最低限必要なことに力を注ぐ工夫が大事だ。セーフティーネットの再構築は社会全体を護る意味でも今後ますます重要になるが、直近は正規・非正規に関わらず、現時点で自粛要請の対象に入らない日常生活を支える職場を中心に、“公的”な仕事を最前線で担っている人を護ることだ。
 また、医療の現状が重症度に応じて優先的に選別する「トリアージ」の“前段階”にあるとしても、感染防止のためのマスクや消毒液の増産・輸入・頒布を本気で検討して欲しい(自国でできないなら隣国に頼ろう)。ネットでの高額販売や私益のための配布など間接的に広く頒布されるべきものを妨害する行為を厳しく罰した上で、感染の可能性の高いところから順次に行き渡る実用的な供給対策を考えてもらいたい。
 それにしても、ここまで社会の脆弱化が進んでいたことに驚く。政府を始め、主要な自治体の長の言葉もその多くが信頼に足るものではなくなっていたが、“効率”や“経済合理性”に偏って、暮らしを持続させる上での基本的なインフラについて縮減・廃止を行ってきたツケがこのコロナ“禍”において大きく響いている。膨大な予算を使って“防衛”兵器を購入しながら、水道民営化や種子法廃止など社会システムを支える仕組みへの破壊が今なお、この時点でも進んでいることにおののく。
 日本人が真剣に後の世代のことを考えているとは到底思えない。後の世代は、私たち日本人が“嘘つき”で無能無策な為政者を選んできたことに怨嗟の声をきっと挙げるだろう。いや、“選びさえしなかった”ことに…。それは率直に謝るしかないのだが、コロナ後の社会をどうやって生きるのか、“先”を進んでいる東アジアの隣人達にも教えを請う必要がある。彼らに学ぶべきことは多い。

苛政と傷寒に起ち上がった人々2020年04月18日 10:51

いわゆる漢方と呼ばれる東アジアの伝統医学の中に『傷寒論』というものがある。後漢時代の医師張仲景によって編集された。「傷寒」とは急性熱性疾患を広く言い表す言葉だ。この傷寒の流行を一つのきっかけに起きた大規模な住民蜂起を背景とする歴史小説がある。飯嶋和一の『出星前夜』。江戸時代初期の「島原の乱」を舞台に、転封でやってきた大名松倉家の苛政に苦しむ元キリシタン達が時代に翻弄されるように蜂起へと起ち上がった事情と結末を描いている。主人公は「天草四郎」ではなく、島原半島南部、南目(みなみめ)の有家(ありえ)に住む篤農家甚右衛門(後の蜂起勢参謀鬼塚監物)と若衆の一人矢矩鍬之介(後の医師北山寿安)。
 作家は、デビュー三作目の『始祖鳥記』以来、あまり陽は当たらないけれど特異な人物や、歴史的事件の背景に連なる“個人”のありようを題材に、数少ない長編小説を書き下ろしてきたが、この作品も前作から4年後に出ている。時に饒舌とも思われるような繰り返しの描写が、登場人物の“人間”としての造形を読む者に浸透させる。だから、単行本で500頁を超える大作にもなるが、いつも読後は充足感で一杯だ。
 苛政に苦しめられていた人々に“傷寒”というさらなる災禍が訪れる。蜂起が引き金とはいえ、その“信仰”により誅殺された人々と、“いのち”を救う医師の物語は今を考えさせられる。