これからの原尞は?2020年04月23日 10:54

昔から“本格推理”と形容される作品にはあまり興味が湧かない。同様に“○○節”と呼ばれる叙情に傾く文体も苦手で、そういう傾向が強い推理・冒険小説を敬遠してきた。だから、どちらかと言えば“乾いた”文体を多く好んで読んで来たような気がする。寡作の作家原尞の作品もその一つだ。その最新作が一昨年に刊行された『それまでの明日』である。
 探偵「沢崎」が主人公の連作とはいえ、14年ぶりともなると本作で初めて知ったという若い読者もいるだろう。警察や“暴力団”が出てくるが、いわゆる“ノワール”とは違うし、興信所が活躍するミステリーとも違う。やはり、著者が心酔するレイモンド・チャンドラーに代表されるハードボイルドに近いが、探偵事務所のある新宿が舞台の中心であることから、細かく描かれた背景に臨場感がある。私のような、酒をほとんど飲まず、煙草は二十歳前に試しただけの田舎者をして、そう強く感じさせるだけの丁寧な描写が真骨頂だ。
 50代となった探偵の、依頼人や様々な関係者とのつながりは、今までより少し緩やかになった“きらい”はあるが、それは主人公以外に携帯電話を持たない人物が出てこなくなった時代を一面で表しているのかもしれない。“それまで”あった社会が急速に変わってしまった後、探偵として主人公沢崎がどのように処していくのかが次作では描かれるのかもしれないが、果たしてそれはいつ頃のことになるだろうか。

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