傷みと生きるということ ― 2020年08月16日 14:03

ETV特集「サヘルの旅 〜傷(いた)みと生きるということ〜」を観た。イラン生まれで孤児から養子となり、養母と来日後も多くの苦難を経て女優となったサヘル・ローズさんが、かつての自らと同様の境遇にある子供や母親たちを訪ねる旅の記録である。
 番組のところどころに、アニメーション作家若見ありささんが描くチャドルをまとった女性が登場する。普段は人一倍明るく振る舞おうとするサヘルさんだが、鏡を見る度に、この黒いチャドルで隠された過去の悲惨な体験が軛(くびき)のように思い起こされる。
 それは、全てをなげうって自分を育ててくれた“母”との日常の一部に残る傷でもあるが、自分に手渡されたバトンを“つなぐ旅”に出ることによって変わってゆく。「砂漠のバラ(サヘル・ローズ)」と名付けられた逆境に咲く強さは、人々との出会いによって激しく揺さぶられながらも少しずつ“根を張り”彼女を前へ進ませる。自身の体験を“伝える”ことで自らが解放されてゆく自覚があるのかもしれない。番組最後の方で砂絵の黒いチャドルは鳥に変わって飛び立った。
 砂漠のバラといえば思い出すのは『星の王子さま』である。ふるさとの星との別れ際に、王子さまがその護身用にとかぶせようとした覆いのガラスを、あの花はことわった。自らのトゲを見せながら…。
 昨秋放送されたEテレ「こころの時代」と一部重複する場面もあるが、少しでもメディア接触が多い時間帯に新しい形で放送されるのは望ましい。なお、8月19日(水)深夜0時からEテレで再放送があります。

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