1937年とは2024年11月05日 17:15

荒天から一転して晴れた一昨日は、二つのイベントを梯子しました。まずは渋谷。常磐松にある國學院大学の若木祭には、以前中国出身の留学生と一緒に行ったことがあります。前回は日本文化の様々を体験するためでしたが、今回は打って変わって硬派なイベントで、歴史学研究会が主催する山﨑雅弘氏(戦史•紛争史研究家)の講演を聴いてきました。
 「戦争と総動員の時代に迫る」と題した講演は1時間、休憩後の質疑応答は次の予定にかかるので途中で退出しましたが、二つのテーマに絞った話はとてもわかりやすくて貴重な内容でした。
 一つは「日中戦争の曖昧な始まりと国民への戦争協力の強制」(国民精神総動員」と「国家総動員」)。国家の戦争体制が固まる前の段階にあった1937年の「盧溝橋事件」と、その後拡大して呼ばれるようになる「北支事変」(いずれも日本側の呼称)の発生を受けて、当初の現地交渉を重視せず、わずかな間に武力解決に向かう派兵を“閣議決定”で決めた政府が、その後、戦線拡大に応じて準戦時体制へ傾いてゆく歴史を概観します。当初より財界やメディアを取り込み、物価高にあえぐ庶民の生活不安を“非常時”の言葉で薄めながら、一方で長期化する“事変”への増税と共に、国家への奉仕を強制するための挙国一致キャンペーンを始めます。首相の署名が入った宣伝ビラを配り、国民精神を総動員するための布石を日常生活に持ち込みました。これが、後に法制化する「国家総動員法」による強制的な徴用へとつながります。一部の議員はその危険性に声を上げますが除名され、世間にはあの“非国民”という言葉が広がるのです。
 もう一つは「戦争と財界人」(戦争で巨額の利益を得た大企業)。戦時体制下の庶民の生活苦をよそに、戦時経済に乗って巨額の儲けを出した財界人の中には、当初から「天佑なる哉(かな)北支事変」と、その後の戦時予算の急速な拡大を歓迎した者もいました。戦中の商工大臣も経験したこの企業家は、戦後、朝鮮戦争時においても“天佑”という表現で特需を表しています。他にも、同樣の意識で軍事景気を望む財界人の発言は記録に残っており、現代にもつながる拝金主義を強く感じます。
 この日の講演の内容は、山﨑氏の著書である『1937年の日本人』(2018年、朝日新聞出版刊)により詳しく述べられていますが、その前年暮れの状況が現在と酷似していることに驚きます。長く続く経済恐慌の影響で貧困が拡大する中、地方交付金は削除されても、膨大な軍事予算は繰越も認められ、軍機保護法も改定されます。選挙権には大きな制限があり、国民全体の声を反映できないまま政治不信が高まります。対外関係は一触即発の状況にもなく、消費生活を物語る広告が溢れている一方で、「非常時」や「国難」など準戦時体制を示すような言葉が政府発表や雑誌記事で使われようになりました。
 2024年の今は、物価高、防衛費増大、政治不信、低い投票率、経済安保、被災地域の切り捨て、国際共同演習などです。その先にあるのは緊急事態条項を含む改憲でしょうか。12月に出る予定の山﨑さんの新刊では今の社会状況に即した新たな問題提起もなされるようです。

人間としての行いを問い続けてきた人々2024年10月15日 16:58

“核共有”も視野に入れる新しい日米安保の体制を検討する石破政権の発足と合わせたかのように、「日本被団協」へノーベル平和賞が授与されるという発表がありました。
 1955年、前年のビキニ環礁水爆実験で被曝した第五福竜丸の事件もあって全国で3000万を超える原水爆禁止の署名が集まりました。それを受けるように開かれた世界大会で、被爆者代表として発言し、後に政党の思惑で分裂した運動に幻滅しながらも、広島を訪れる子どもたちに向けて被爆体験を語り続けた高橋昭博さんという人がいます。
 翌年に発足した広島県原爆被害者協議会に参加し、後に拡がった全国組織「日本被団協」でも活動する一方、広島市の広報課に職員として務め、79年からの4年間は広島平和記念資料館の館長でした。私が20代の後半に初めて訪ねた広島でお会いして以来、手紙の遣り取りも含め、いつも“草の根”という言葉を体現する生き方をしていた方だと敬っていました。
 「被団協」の運動はいつもそうした“草の根”の人たちに支えられてきたものです。そこには、あの悲劇から残った者として、一人でも続けるという強い意志が感じ取れます。今回の受賞を受けて代表委員の箕牧さんが「ガザでの紛争で傷ついた子どもたちと、原爆孤児の姿が重なる」と語ったことがとても印象的でした。政治問題以前の、人間としての行いそのものを問い続けている人だからこそのメッセージだったのでしょう。

国際紛争の現場に関わるボランティア2024年10月04日 16:42

恒例となっているMSFへの寄付。今年もまた、世界中で起きている紛争の各所に赴いている人々がいることを想う。犠牲となった方に合掌。

野球にまぎれる胡散臭い禊ぎ2024年09月30日 16:38

自宅のある地域では、プラスチック類や古紙などリサイクルされるゴミの収集が土曜日に行われます。それで、まとめて捨てる予定の2週間分の新聞を前日の金曜日にざっと見直す習慣が生まれました。先週末までの2週間、メディアが作りだした世相は自民党の総裁選と大谷翔平選手のシーズン成績にほぼ席巻されていたようです。
 この10年で国民の暮らしはもちろんのこと、この国の世界的な評価を著しく低下させた安倍政治を継承するという高市氏が、自党の国会議員や地方党員の半分近い支持を集めました。そのことは、この党が何も変わっていない実態をあらためて再確認できたことを示しますが、同時に、国税を私欲のために使った裏金の構造や旧統一教会との関連の実態を見直しもせぬまま、政策に無関心な国民を出汁にして、衆議院選挙で勝てばそれで“禊(みそぎ)”は済んだとするだろう石破氏もまた、同じ党人であることを良く表しています。
 一方で、安倍政治に道を開いた張本人を代表に選んだ立民党や、パワハラ知事を筆頭に不祥事の政治家を次々と生み出す維新の会など、“現状で支持率が高い野党”にも期待など全くできません。
 私は“保守的”な人間ですから、ひたすら現状を改悪し続ける今の政権与党や、そこに明確な反対を押し出さないどころか延命を助けるような翼賛野党には一刻も早く退場していただくことを望みます。
 もう、庶民には、大リーグの記録を塗り替える新しいヒーロー像に酔いしれることぐらいしか残されていないように思える2週間でした。

五輪と聖書の欺瞞2024年08月12日 16:26

8月10日、多くの住民が避難しているガザ市内の学校をイスラエル軍が空爆した。国際法を踏みにじり、パレスチナ人を根絶やしにするようなジェノサイドを続けるこの国の首相が、イエスの誕生を耳にしてダビデの街の幼子を虐殺したヘロデ王に重なって見える。私は元々無神論者だが、キリスト教徒というものは、この惨状を前にして一体何を考えているのかを深く疑っている。
 長崎市が平和祈念式典にイスラエルを呼ばなかったことを「政治的に利用した」などと言って欠席したアメリカを始めとするG7各国(日本政府は静観)の大使たちは、国際法の観点からみてロシアのウクライナ侵攻とどう違うのかを説明できるのだろうか。
 もとより、ロシアもイスラエルも共に呼び、核兵器を後ろ盾にした信仰ならぬ侵攻の“過ちを繰り返さない”ようにと意識させることはできたかもしれないが、パリの別の“祭典”同様、一方的な“正義”に基づいて判断されるダブルスタンダードの世論の方は、明日をも知れずに生き続けなければならない人には決して向かわない。
 それとも、彼らはイエスが辿った歴史のように、パレスチナの人々もまた、エジプトへ逃げれば良いとでも考えているのだろうか。