謡と薩摩琵琶のセッション2019年05月21日 12:50

先日、ともだち書店「大人のためのおはなし会」で朗読した平家物語の「橋合戦」は、広尾東江寺の寺子屋で仕入れたものである。「天籟能」という“能の公演”に先立って開かれるワークショップなのだが、公演当日の演目について様々な視点による解説を聴いたり、時には詞章(謡の文句)を謡(うた)い、舟の櫓(ろ)を漕(こ)ぐ動作を真似(まね)るなど多彩なプログラムが用意されている。予定されていた7回のうち5回が終了し、そのうち都合が悪かった2回を除き、続けて参加してきたが、今日は、当初入っていなかったプログラムが特別に開かれた。能「船弁慶」の謡を薩摩琵琶の演奏で行うというものである。
 実は今日も第3回の放送があった「100分で名著 平家物語」では、能楽師の安田さんが解説の他に朗読も行っている。その朗読の際の伴奏楽器はいわゆる「平曲(へいきょく)」を語る時の平家琵琶ではなく薩摩琵琶である。安田さんの朗読の強さに負けないために、音量が小さい平家琵琶ではなく、幕末の薩摩に現れ合戦物に向くように作られた薩摩琵琶が採用されたのだ。そうして出会った能楽師と琵琶奏者によるライブ・セッションが今日あった。謡はワキ方の安田登さん(弁慶役)と狂言方の奥津健太郎さん(船頭役)、薩摩琵琶は塩高和之さんである。
 能の囃子方(笛・小鼓・大鼓・太鼓)が奏でて作るような、現(うつつ)にはない幽玄な音世界とはまるで違う。自然現象を巧みに表すような描写力と劇的な効果音が、朗読や謡と相俟って「船弁慶」の世界を現出させるのだ。そこには新しい“語りのカタチ”が生まれている。その現場に立ち会っているような面持ちだった。スタンディングオベーションこそなかったが、終わった後の拍手はなかなか鳴り止まなかった。このセッションは寺子屋が始まる前、わずか15分ほどの音合わせ(?)しかしていないという。それゆえの緊張感もあった上で、息を合わせる演者のすごさを見聞させてもらった。僥倖である。本尊の観世音菩薩も満足されたのではないだろうか。