未来を照らす映画館2022年07月21日 22:55

一昨年、コロナ禍の映画館運営を支援しようと企画された「ミニシアター・エイド基金」に参加した際、指定した二つの映画館それぞれで1回ずつ鑑賞できる「未来チケット」という特典があったのですが、それをすっかり忘れていました。
 先日気がついて確認したところ2022年末まで使えるということだったので、コロナウィルス感染の第7波が本格化する前に、気になっていた2本の映画が同時期に上映中のこのタイミングで観て廻りました。映画館のハシゴはおそらく40年ぶりぐらい前に遡ります。その頃は、中野区の住民だったので東京の名画座でしたが、今回は横浜市中区にある「シネマ・ジャック&ベティ」と「横浜シネマリン」というミニシアターの双璧です。
 観たのは「スープとイデオロギー」と「教育と愛国」。前者は「かぞくのくに」で有名なヤン・ヨンヒ(梁英姫)監督のドキュメンタリーです。前作から10年ぶりですが、在日外国人の家族模様の中にある不条理を、今回は母親を中心に追いました。大阪生まれのオモニ(母)が、疎開した先の済州島で、戦後あの4.3事件に遭遇し再び日本へ戻ります。そして、後に総連幹部になるアボジ(父)と出会うのですが、この一連の個人体験そのものが、「国」によって不条理に翻弄された人々の“思想の核”になっています。3人の息子を帰国事業で送り出した母親の想いを包み込むように新しい家族が鶏のスープを囲みます。そして、オモニが原体験を遡る旅がようやく叶った時、既に彼女は記憶を失いかけていました。そのことに言葉がありません。
 「教育と愛国」の監督は大阪MBSの斉加尚代ディレクター。2017年に放送した同名のドキュメンタリーを、その後の追加取材で補強したものです。元々の作品は、長期に渡る取材によって検定による教科書の“変質”を取り上げたものでしたが、その最後に出てきた「道徳」教科書が、放送翌年から教育現場で実際に使われ始めたこと、また、高等教育においても政治の介入が昂進していることが描かれます。番組はギャラクシー賞のグランプリに選ばれ、翌年のNHK-BS「ザ・ベストテレビ」で全国向けに放送されますが、その時もゲスト3名の評価は非常に高いものでした。冒頭の「れいぎ正しい、あいさつ」の紹介から驚かされますが、なかでも育鵬社歴史教科書の伊藤隆東大名誉教授の発言は前代未聞です。彼は「歴史から何を学ぶべきですか」という質問に応え、こう言い放ちました。「学ぶ必要はないんです」。この一言が全てを言い表しています。