京城の日本人 ― 2018年10月25日 14:42
地元での一仕事が終わってからの楽しみがもう一つあった。昨日は駒場へ芝居を観に行く。平田オリザ作・演出による青年団初期の作品『ソウル市民』とその10年後を描いた『ソウル市民1919』がアゴラ劇場で続けて演じられた。6月に吉祥寺で『日本文学盛衰史』を観たときにもらったチラシでこの秋の公演を知り、ずっと待ち遠しかった舞台である。
初めて演題を見たときは、韓国への留学経験がある平田オリザの体験に基づく80年代のソウルを背景にした作品かと思っていた。ところが、描かれた時代は20世紀初頭、つまりソウルがまだ「京城」と称していた頃。では、なぜ“ソウル市民”なのか。初演当時「現代口語演劇」と呼ばれたように、西洋演劇の翻訳調から抜け出すための実験の中には日常の自然な日本語表現そのものに劇的要素を見いだす試みがあったのだろうか。もしかしたら、1990年代の日本人にとってより自然な“ソウル”をあえて採用したのかもしれない。そんな風にも思えた。
さて、舞台は“京城”(ソウル)で中堅の文具店を経営する一家のリビングルーム。時代は韓国併合の1年前だが、大旦那が最初に店開きしてから既に30年も経つ一族には、使用人の娘として生まれ、日本語に不自由なく育った朝鮮人女中“淑子”までいる。大家族が入れ替わり立ち替わり居間で繰り広げる話題は様々で政治から芸能まで幅広いが、その多くが朝鮮半島でのことであり、時に“朝鮮人のこと”が含まれる。「朝鮮人は…」という時の、当時の平均的な日本人を彷彿とさせる、どこか侮蔑感と優越感の交じった言葉の数々が、会話の中に無意識に含まれる。それは、朝鮮人の女中がその場にいても変わらない。もちろん、“差別される側”は時代や場所を超えて繰り返し創り出されているが…。だからこそ、ごく普通の日常会話の中に潜む差別意識を「現代口語」による表現によって浮かび上がらせたこの舞台を、今再演しようとする意味は大きい。
続編『ソウル市民1919』では同じ一家の10年後、“三一運動”当日のリビングルームが舞台だ。表通りを歩く多くの朝鮮人の存在を認めながら、それでも普段の日常を続ける彼らは、前作同様の態度でその様子を揶揄する。一方、興行の為に初めてやってきた俄力士の不安と焦燥が、朝鮮半島に住む日本人達の感覚と対比される。その俄力士が舞台から去り、後に残された一家が、歌詞を京城に置き換えた「東京節」を歌うところで暗転して終わる。
いずれも、90分を超える実時間の一場に、日常に潜む様々な“支配”の実相を描き出した見事な作品だった。一家のその後を描いた『ソウル市民 昭和望郷編』・『ソウル市民1939恋愛二重奏』も是非観てみたい。
初めて演題を見たときは、韓国への留学経験がある平田オリザの体験に基づく80年代のソウルを背景にした作品かと思っていた。ところが、描かれた時代は20世紀初頭、つまりソウルがまだ「京城」と称していた頃。では、なぜ“ソウル市民”なのか。初演当時「現代口語演劇」と呼ばれたように、西洋演劇の翻訳調から抜け出すための実験の中には日常の自然な日本語表現そのものに劇的要素を見いだす試みがあったのだろうか。もしかしたら、1990年代の日本人にとってより自然な“ソウル”をあえて採用したのかもしれない。そんな風にも思えた。
さて、舞台は“京城”(ソウル)で中堅の文具店を経営する一家のリビングルーム。時代は韓国併合の1年前だが、大旦那が最初に店開きしてから既に30年も経つ一族には、使用人の娘として生まれ、日本語に不自由なく育った朝鮮人女中“淑子”までいる。大家族が入れ替わり立ち替わり居間で繰り広げる話題は様々で政治から芸能まで幅広いが、その多くが朝鮮半島でのことであり、時に“朝鮮人のこと”が含まれる。「朝鮮人は…」という時の、当時の平均的な日本人を彷彿とさせる、どこか侮蔑感と優越感の交じった言葉の数々が、会話の中に無意識に含まれる。それは、朝鮮人の女中がその場にいても変わらない。もちろん、“差別される側”は時代や場所を超えて繰り返し創り出されているが…。だからこそ、ごく普通の日常会話の中に潜む差別意識を「現代口語」による表現によって浮かび上がらせたこの舞台を、今再演しようとする意味は大きい。
続編『ソウル市民1919』では同じ一家の10年後、“三一運動”当日のリビングルームが舞台だ。表通りを歩く多くの朝鮮人の存在を認めながら、それでも普段の日常を続ける彼らは、前作同様の態度でその様子を揶揄する。一方、興行の為に初めてやってきた俄力士の不安と焦燥が、朝鮮半島に住む日本人達の感覚と対比される。その俄力士が舞台から去り、後に残された一家が、歌詞を京城に置き換えた「東京節」を歌うところで暗転して終わる。
いずれも、90分を超える実時間の一場に、日常に潜む様々な“支配”の実相を描き出した見事な作品だった。一家のその後を描いた『ソウル市民 昭和望郷編』・『ソウル市民1939恋愛二重奏』も是非観てみたい。