三味線からみる浪曲2018年10月05日 13:56

 昨年度は「語り芸パースペクティブ」が開かれたカメリアプラザ和室で、今年もちょっと変わった企画が催された。「浪曲。三味線の視座」と題された3回シリーズで「浪曲を三味線の立場から解剖してみたい」というのが趣旨。毎回現役バリバリの曲師を迎え、浪曲の構造を解説した後に一席丸々と聴いてみるという奈々福さんプロデュースの仕掛けだ。第1回はご存知浪曲界のレジェンド沢村豊子師匠がゲスト(?)。
 始まりはいつもと逆の並び。つまり奈々福さんが上手(かみて)で三味線を弾きながら浪曲三味線の基礎知識を解説し、豊子師匠がところどころで合いの手を入れる。元々浪曲協会の三味線教室に通ったのがきっかけでこの世界へ入った奈々福さん。当初は曲師として入門し、浪曲師に転じた後も、折々に弾いていることもあって、三味線の構造・材質から調弦まで基礎的な解説を一通り行ってくれる。その上で、いよいよ豊子師匠の浪曲一代記(?)の触りに入る。
 その内容は姜信子さんの『現代説経集』に詳しいが、縁があって上京し、修行しながら旅芸人として全国を周った後に、国友忠という浪曲師との運命的な出会いがあった。一時的に専属となった浪曲教室では並み居る天狗連(玄人はだしの浪曲好き)を相手にし、ブームの中心となったラジオでは名だたる師匠達の曲師も務めた。その間、新しい“節”を創り出す国友忠の相三味線にもなって多彩な芸風を創り上げていった。
 それは“節で出てくる泉”という言葉にも良く表れている。たとえば後段で演じられた『甚五郞旅日記 掛川宿』の中には、外題(げだい)付けのキッカケ節から、三種のアイノコ節、関東節、そしてセメ節まで、多彩な“節”が代わる代わる出てきては、もの語りの“啖呵”を見事につないでいく。しまいには、三味線の音が浪曲師の声と相まって独特な“グルーブ”を創り出す。それはジャズの即興に近い。聴いていて身体が自然と揺れ動くところは何とも言えない感覚だ。そうした“場”を生み出せることが、ご本人にはいたって自然なものになっている。奈々福さんが“二人の芸”と繰り返し呼ぶ意味の大きさを、あらためて感じた一夜だった。