引き攣(つ)る地球環境 ― 2022年06月06日 22:26
一昨年の暮れにここで紹介した絵本『夜の木』の出版社タムラ堂から新しい本が出ました。前回同様インドのタラ・ブックスが製作したもので、タイトルは『時をこえて』といいます。環境問題を考える関係者の共通する想いが伝わってくるような書名ですが、いわゆる「SDGs」のようなトップダウン的な要素はなく、きわめて個人的な試みの中から「時をこえて」声が拡がることを祈っているようです。
本の内容はフランスの現代刺繍作家の作品集です。本体はオフセット印刷ですが、表紙には作品のレプリカが立体的に飾られます。黒いビニールに縫い付けられた植物模様の刺繍。それは、作者が観た西アフリカのビニール袋と絶滅危惧種の植物たちを象徴しています。
つまり、それぞれに、日常からは見えにくいけれど、そにには共通した問題が隠れていて、おそらく、副題の「ひと針のゆくえ」は、その問題が引き起こす未来への啓示を表しているようにも思えます。表紙のレプリカの触感が、本体の写真に見えるビニール袋の“引き攣(つ)り”を実感させるようにできているのが何よりの証明です。黒いビニールのゴミ袋にひと針ずつ慎重に刺された模様からは、周辺のビニールを歪ませながら、絶滅することなく生き続けようとする植物の生命力が感じられます。
このようなモチーフを思い付くこと自体も珍しいのでしょうが、実際にそれを具象化する気の遠くなる営為には驚かされます。それだけに作者の強い想いが伝わってきました。
一方で、ページをめくりながら、私はある映像を思い出しました。それは、深刻な人為事故を犯し、環境に放射能をばらまいた福島原発が産み出すフレコンバッグです。人間の生涯をはるかに超える放射能の半減期において、黒い袋に現れるかもしれない“引き攣り”をどうやって“ほつれ直し”てゆくのか、それもまた「時をこえて」次世代に引き継いでゆく負債の一つです。
本の内容はフランスの現代刺繍作家の作品集です。本体はオフセット印刷ですが、表紙には作品のレプリカが立体的に飾られます。黒いビニールに縫い付けられた植物模様の刺繍。それは、作者が観た西アフリカのビニール袋と絶滅危惧種の植物たちを象徴しています。
つまり、それぞれに、日常からは見えにくいけれど、そにには共通した問題が隠れていて、おそらく、副題の「ひと針のゆくえ」は、その問題が引き起こす未来への啓示を表しているようにも思えます。表紙のレプリカの触感が、本体の写真に見えるビニール袋の“引き攣(つ)り”を実感させるようにできているのが何よりの証明です。黒いビニールのゴミ袋にひと針ずつ慎重に刺された模様からは、周辺のビニールを歪ませながら、絶滅することなく生き続けようとする植物の生命力が感じられます。
このようなモチーフを思い付くこと自体も珍しいのでしょうが、実際にそれを具象化する気の遠くなる営為には驚かされます。それだけに作者の強い想いが伝わってきました。
一方で、ページをめくりながら、私はある映像を思い出しました。それは、深刻な人為事故を犯し、環境に放射能をばらまいた福島原発が産み出すフレコンバッグです。人間の生涯をはるかに超える放射能の半減期において、黒い袋に現れるかもしれない“引き攣り”をどうやって“ほつれ直し”てゆくのか、それもまた「時をこえて」次世代に引き継いでゆく負債の一つです。
遠くにあって触れられないものを探す ― 2022年06月07日 22:27
先に触れた画集『時をこえて』は通販で取り寄せました。出版したタムラ堂のHPで取り扱っている書店の中に、ちょっと変わった名前の書店を見つけたからです。名前はトンガ坂文庫。九鬼水軍で有名な三重県尾鷲市の、今は小さな漁村にあります。
トンガ坂をWeb上で検索してみると、ネット上には様々な記事が出ていて、その中の一つに“手触り”という言葉があるものに気づきました。「雛型」というWebページの特集で、地方の小さな本屋が選書した記事を「手触りのあるもの」と題して載せています。その記事によれば、「トンガ」とは土地の言葉で大風呂敷を広げる人を指すそうです。そんな“おじさん”が多く住んでいたところから名付けられた“坂”の上にあって、週末だけ開けているとのことでした。
普段は読まない小説ばかりを選書した店主の本澤さんは「自分から触りに行きたいものは、身近な生活と直接地続きになっているものよりも、物理的に、時間的に、次元的に、遠くにあって触れられないものなのかもしれません」と語っています。
『時をこえて』を購入するにあたり、一番適しているところを偶然に選んだのかもしれないと感じるコメントでした。
トンガ坂をWeb上で検索してみると、ネット上には様々な記事が出ていて、その中の一つに“手触り”という言葉があるものに気づきました。「雛型」というWebページの特集で、地方の小さな本屋が選書した記事を「手触りのあるもの」と題して載せています。その記事によれば、「トンガ」とは土地の言葉で大風呂敷を広げる人を指すそうです。そんな“おじさん”が多く住んでいたところから名付けられた“坂”の上にあって、週末だけ開けているとのことでした。
普段は読まない小説ばかりを選書した店主の本澤さんは「自分から触りに行きたいものは、身近な生活と直接地続きになっているものよりも、物理的に、時間的に、次元的に、遠くにあって触れられないものなのかもしれません」と語っています。
『時をこえて』を購入するにあたり、一番適しているところを偶然に選んだのかもしれないと感じるコメントでした。
先を見つめる“デザイン”のある日本語学校 ― 2022年06月14日 22:29
少しずつ出歩くことが増えています。先週の火曜は友人のパートナーの個展を観に外苑前へ出かけ、金曜には自宅から歩いて20分弱の歯医者に行きました。土曜日は、西区にある日本語学校の校内勉強会へ参加するため横浜駅から20分ほどの距離を往復しました。ちょうど7年前の今日、RKK(「留学生と語り合う会」)入会後に初めて日本語学習の支援を行った留学生が通っていた専門学校です。
京急戸部駅に近い「横浜デザイン学院」は。古くは洋裁専科でしたが、2001年に現在の校名に変更し、ファッションを含めた様々なデザイン分野と外国人への日本語教育を併せた学院に生まれ変わりました。誘われて観に行った文化祭で、日本語の担当の先生を紹介され、以来、この学校が取り組んでいる日本語教師向けの勉強会に時々参加しています。
一昨年まで、特定分野の専門家を呼んで外部にも門戸を開いた大人数の講座も定期的に開催されていましたが、このところは休止状態でした。今回は、一昨年夏のオンライン勉強会から久しぶりに行う校内勉強会への
お誘いをいただき、いそいそと参加することにしたのです。
内容は、文化庁が出した「日本語教育の参照枠」という“公的”な参考目標を受け止めながら、それを実際の教育現場で具体化するための主体的な工夫を紹介するものでした。その成果は、デザイン専科を持つ学校ならではの“ZINE”作りにも現れています。写真やイラストが混じった日本語小冊子を見ると、「日本語学校」として運営してゆく方向性を確かめながら、一方で、現実の社会につながる外国人にとっての日本語教育のありように試行錯誤しながら取り組む先生方の姿勢を強く感じます。そこにはきっと学ぶ留学生への“敬意”もあるのでしょう。
何より、この国に来て良かったと思えるような出会いがそこにはありました。そうした想いがもっと拡がって欲しいと心から思います。
京急戸部駅に近い「横浜デザイン学院」は。古くは洋裁専科でしたが、2001年に現在の校名に変更し、ファッションを含めた様々なデザイン分野と外国人への日本語教育を併せた学院に生まれ変わりました。誘われて観に行った文化祭で、日本語の担当の先生を紹介され、以来、この学校が取り組んでいる日本語教師向けの勉強会に時々参加しています。
一昨年まで、特定分野の専門家を呼んで外部にも門戸を開いた大人数の講座も定期的に開催されていましたが、このところは休止状態でした。今回は、一昨年夏のオンライン勉強会から久しぶりに行う校内勉強会への
お誘いをいただき、いそいそと参加することにしたのです。
内容は、文化庁が出した「日本語教育の参照枠」という“公的”な参考目標を受け止めながら、それを実際の教育現場で具体化するための主体的な工夫を紹介するものでした。その成果は、デザイン専科を持つ学校ならではの“ZINE”作りにも現れています。写真やイラストが混じった日本語小冊子を見ると、「日本語学校」として運営してゆく方向性を確かめながら、一方で、現実の社会につながる外国人にとっての日本語教育のありように試行錯誤しながら取り組む先生方の姿勢を強く感じます。そこにはきっと学ぶ留学生への“敬意”もあるのでしょう。
何より、この国に来て良かったと思えるような出会いがそこにはありました。そうした想いがもっと拡がって欲しいと心から思います。
戦争を考える“栞” ― 2022年06月22日 22:31
また、少しコロナ前に戻っています。今日は日吉駅から歩いて15分ほどの所にある「こどもの本の店ともだち」。ここは3年ぐらい前まで「大人のおはなし会」というイベントで朗読するために何度か通ったところです。ボランティアにより運営されている絵本と児童書に特化した書店ですが、ここを知ったのはちょっとした偶然でした。
5年ほど前に、翻訳家金原瑞人氏の講演を神楽坂まで聴きにでかけた時に、会場で「BOOKMARK」という不定期刊行の小冊子をお土産にもらいました。同名のWebページ上ではバックナンバーも公開しているのですが、それと同時に新刊を無償配布する全国の書店リストが掲載されていました。その一つに日吉の書店があったのです。
場所で云えば、地下鉄日吉本町駅に近いのですが、日吉からも歩いて行けないことはありません。ただ、途中に長い急坂があり、往きは良い良い帰りは…という場所です。それでも、梅雨明け前の曇天の下、久しぶりに訪ねたのは、上述の「BOOKMARK」が緊急特集号を出したと聞いたからです。テーマは「戦争を考える」。冊子冒頭に寄稿を依頼した文章が引かれています。
「海外の翻訳作品の紹介冊子です。とくに若者に読んでもらいたい作品を中心に採り上げてきたのですが、今回は特別に、日本の作家さんに作品をひとつ、(中略)取り上げていただき、それにからめて戦争に関するエッセイをお願いすることにしました」
29人の作家が寄稿しています。内容は様々です。小説も絵本もドキュメンタリーもあります。書き手の多様性が選書に良く表れていて、編集後記で金原さんが書いた「今、この状況に置かれて、本当に出し続けてきて良かったなと思いました」という言葉がしみじみと染み入る冊子です。
5年ほど前に、翻訳家金原瑞人氏の講演を神楽坂まで聴きにでかけた時に、会場で「BOOKMARK」という不定期刊行の小冊子をお土産にもらいました。同名のWebページ上ではバックナンバーも公開しているのですが、それと同時に新刊を無償配布する全国の書店リストが掲載されていました。その一つに日吉の書店があったのです。
場所で云えば、地下鉄日吉本町駅に近いのですが、日吉からも歩いて行けないことはありません。ただ、途中に長い急坂があり、往きは良い良い帰りは…という場所です。それでも、梅雨明け前の曇天の下、久しぶりに訪ねたのは、上述の「BOOKMARK」が緊急特集号を出したと聞いたからです。テーマは「戦争を考える」。冊子冒頭に寄稿を依頼した文章が引かれています。
「海外の翻訳作品の紹介冊子です。とくに若者に読んでもらいたい作品を中心に採り上げてきたのですが、今回は特別に、日本の作家さんに作品をひとつ、(中略)取り上げていただき、それにからめて戦争に関するエッセイをお願いすることにしました」
29人の作家が寄稿しています。内容は様々です。小説も絵本もドキュメンタリーもあります。書き手の多様性が選書に良く表れていて、編集後記で金原さんが書いた「今、この状況に置かれて、本当に出し続けてきて良かったなと思いました」という言葉がしみじみと染み入る冊子です。
引き返せるかもしれない最後の夏 ― 2022年06月24日 22:33
この7月に行われる参議院選挙が終われば、大手マスコミが好んで使う“政局”は、衆議院の解散がない限り3年半もの長い期間“無風”となります。現状の会派勢力が変わらないと、今後予測されるのは歴史修正主義者が望む“改憲”です。
約16年前の2006年、当時の安倍政権が“改正”した教育基本法は、前文から「平和」と「個性」を消し、新たに「正義」と「公共」を付け加えるものでした。同時に進められた教育職員免許法“改正”は、3年後の導入以降、教職の非正規化にまつわる混乱を引き起こし、学校教育の荒廃をもたらしています。
同様に、再登場した安倍政権の負債をそのまま引き継ぐカタチで、現体制が目指す憲法の“改正”も、自民党草案をみれば、前文から「享受・信義・対等」が消え、「帰属・気概・正義」が付け加わります。戦争の惨禍を経て生まれた平和・民主主義的な思想は、戦後80年であえなく葬り去られるのでしょうか。
“彼ら”がいうところの日本の伝統は、個人から尊厳を奪い取り、”公”の名で個人を圧殺する社会の再来を意味します。東京五輪の“踏み絵”に始まる日本国憲法の棄教は、この夏から本格的な「禁令」へと進むのかもしれません。
「何も変わらない」・「他に良さそうなものがない」と思っているうちに「いつのまにか最悪の状態になっている」と気付いた時はもう遅いのですが…。この夏は二度と戻ってこない。
約16年前の2006年、当時の安倍政権が“改正”した教育基本法は、前文から「平和」と「個性」を消し、新たに「正義」と「公共」を付け加えるものでした。同時に進められた教育職員免許法“改正”は、3年後の導入以降、教職の非正規化にまつわる混乱を引き起こし、学校教育の荒廃をもたらしています。
同様に、再登場した安倍政権の負債をそのまま引き継ぐカタチで、現体制が目指す憲法の“改正”も、自民党草案をみれば、前文から「享受・信義・対等」が消え、「帰属・気概・正義」が付け加わります。戦争の惨禍を経て生まれた平和・民主主義的な思想は、戦後80年であえなく葬り去られるのでしょうか。
“彼ら”がいうところの日本の伝統は、個人から尊厳を奪い取り、”公”の名で個人を圧殺する社会の再来を意味します。東京五輪の“踏み絵”に始まる日本国憲法の棄教は、この夏から本格的な「禁令」へと進むのかもしれません。
「何も変わらない」・「他に良さそうなものがない」と思っているうちに「いつのまにか最悪の状態になっている」と気付いた時はもう遅いのですが…。この夏は二度と戻ってこない。