蘇る状況への違和感2024年09月18日 16:36

先週の日曜日、妙蓮寺の本屋「生活綴方」と、向かいの石堂書店を訪ねました。それぞれに人文系の選書に特徴がある二つの本屋で、新刊を手に取って冒頭の数頁を読む時間は、地元大倉山の書店がコロナ禍で閉店した今、欠かせない日常になっています。
 今回出会った本は『裏庭のまぼろし』(石井美保著、亜紀書房刊)。著者は様々な国でフィールドワークを行ってきた人類学者です。自らの家族が残した手紙や手記などをたよりに、昭和の戦争を生きた人々の暮らしぶりを調べて語り直し、亡くなった人への鎮魂につなげようとした試みの成果です。
 何より、そのきっかけとなったのは陸軍将校だった大叔父の軌跡でした。南洋諸島や台湾に赴任し、最後は沖縄で戦死した彼にとって、内地に残る家族・親族へ向けた気遣いと比べ、近くにいたはずの現地の人々の思いは“見えていなかった”のではないか。その疑問の答えをたどる旅の記録でもあります。
 著者は、「新しい戦前」ともいえる近年の日本社会の変化にも触れ、こう書きました。
「そしていま、私を動かしているものは ・・・ 責任への意識のみならず、現在の状況への違和感と危機感でもある。いま、この社会のあちこちで起こりつつあること。 ・・・ 私の目には、それらのことが1930年代の初頭から敗戦にかけての日本の状況や人びとの経験と、どこか重なりあるものとしてみえてくる。理不尽な法の命令と、知らぬ間に引き受けさせられていた危険。 ・・・ 正気とみえた狂気に従い、自分の本心もわからないまま戦争への道行きに随伴し、あまつさえそれを支える側に回ってしまうこと。 ・・・ もはやその道から降りることもできずに」
 実姉であるイシイアツコ氏の絵と名久井直子さんの装丁がとても柔らかな印象を与えているのと対照的に、この問題意識が多くの日本人に共有されることがなければ、先の未来はとても暗いものになる予感が漂っているのです。

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