外に拡がる絵本2022年01月07日 21:14

年明け早々に耳鼻咽喉科を訪ね、鼻づまりと咳で最悪だった体調がようやく回復してきました。少し落ち着いたところで、暮れに買った絵本を観ながら思ったことを少し書くことにします。
 書名は『海峡のまちのハリル』(三輪舎)。すべてを製本会社で完成させず、横長シールや“切手”などを人力で本体に貼るという“手間”をかけた作りになっています。その作業は、妙蓮寺の本屋生活綴方の奥座敷(?)で行われましたが、当然のことながら一冊一冊が違った体裁です。もちろん、通常の書店にも流れていくわけですが、購入者は少しずつ顔の違った“小包”を受け取ることになります。
 この絵本の舞台は東西世界の接点にあるイスタンブール。かつてはオスマントルコの首都だった海峡の街です。その街に住む少年たちと彼らを取り巻く伝統的な“手業”の仕事を紹介します。エブルと呼ばれる伝統絵画と製作に用いられる紙、そして画材などが、目抜き通りから少し離れた路地の裏でひっそりと作り続けられていて、それらを買い集めることが一枚の“絵”を作る最初の工程であるかのように描かれるのです。
 鉛筆で書かれただけの絵は最初暗く感じますが、ページが進むにつれて、それがあまり知られていない世界を表す工夫のようにも思えてきました。何より、この印刷に含まれる“銀色”が鉛筆で描いた絵そのもののように光ってみえるのです。
 ふと、気になって、これを太陽光の明るさで読んでみたらどうなるのかと思い付きました。案の定、まるで違った世界がそこには生まれます。これは部屋から“表”に出ることを促す絵本なのでしょう。たとえ、変色したとしても、それは日光を吸収して変わった結果です。巣ごもりから一歩踏み出せば、綴じられた一枚の“エブル”のような、どこにもない自分自身の世界が広がるにちがいありません。