手わざで直す世界2021年06月24日 12:10

『ゲド戦記』読了。外伝を含む6冊を読み終わった。就寝前に読んでも、アースシーの世界が夢に出てこなかったのは、現実世界が“悪夢”のようにも思えるせいなのだろうか。
 最終巻は前5冊のエピソードをまとめて引き継いだ、いわば完結編のようなものだったが、最初に出てくるのは“手わざ”の若者である。全体を通して“直す”というのがテーマの一つであれば、最終巻が崩れた“均衡”を取り戻すための話になるのは予想していた通りだが、それを誰がどのようにというところにこそ物語の骨法がある。最後の生命倫理にもつながる話はゲノム解析でクローン人間を創り出す人類への警鐘ともとれた。
 古代の言葉を操る竜たちが、はるか昔に人間と枝分かれした一方であるのは、私たちの動物としての身体性の中に残る本能を彼らが体現してくれているのではないかという淡い羨望をこめてのことなのだろう。原初のコミュケーションはもしかしたら“火”によって生みだされたのかもしれないとさえ思った。