広く深いアースシー ― 2021年06月12日 11:55

『ゲド戦記』別巻読了。日本語訳には“外伝”という副題が付いている。スピンオフ的な3篇の小篇が、ローク島の学院をめぐる創設前夜とゲド無き後の混乱・予兆を描く中篇に挟まれている。実は、邦訳各巻の副題に感心しない。これは、同時期に翻訳・出版されたトールキンの『指輪物語』あたりを意識したものなのだろうが、とても残念である。
読んでいる軽装版には訳者あとがきが掲載されていないが、清水真砂子氏によれば、「ゲド戦記」という邦題は版元岩波の装丁家田村義也氏が名付けたとのこと。しかし、これはジブリの同名映画とも重なるが、原作者ル・グィンの構想した物語とは随分かけ離れている。原題の「The Earthsea Cycle(アースシーの伝説)」の方がはるかに多くの意味を含有しており、そこには“Arthurian Cycle”に代表される中世の物語群に比す“古典”を著そうとした意志が感じられる。
あの宮崎駿監督も大きな影響を受けていたことは、昨年『鬼滅の刃』に抜かれるまで歴代興行成績の首位にあった『千と千尋の神隠し』を思い返してみれば納得がいく。その前作『もののけ姫』と合わせた二作品のところどころに、彼が『ゲド戦記』から得た深い多くのものが表現されているのだから…。
読んでいる軽装版には訳者あとがきが掲載されていないが、清水真砂子氏によれば、「ゲド戦記」という邦題は版元岩波の装丁家田村義也氏が名付けたとのこと。しかし、これはジブリの同名映画とも重なるが、原作者ル・グィンの構想した物語とは随分かけ離れている。原題の「The Earthsea Cycle(アースシーの伝説)」の方がはるかに多くの意味を含有しており、そこには“Arthurian Cycle”に代表される中世の物語群に比す“古典”を著そうとした意志が感じられる。
あの宮崎駿監督も大きな影響を受けていたことは、昨年『鬼滅の刃』に抜かれるまで歴代興行成績の首位にあった『千と千尋の神隠し』を思い返してみれば納得がいく。その前作『もののけ姫』と合わせた二作品のところどころに、彼が『ゲド戦記』から得た深い多くのものが表現されているのだから…。
西方への道 ― 2021年06月12日 11:56
3月の終わり頃に支援したクラウドファンディングによる新作能の公演が本日行われた。今夕、京都の金剛能楽堂で開かれたのは石牟礼道子が書いた『沖宮(おきのみや)』を元にした演目である。3年前に初演されたものだが、コロナ禍での再演を企画すると共に、天草四郎の霊に続く二人目のシテを父性の龍神から母性の大妣君(おおははぎみ)へと変更する大胆な転換があった。東日本大震災後から始まった対談を通じ、新しい能装束の染色を引き受けた志村ふくみが、石牟礼道子と語り合う中から生まれた水瑠璃や紅扇の衣装が美しい。
雨乞いの人身御供となった少女が龍神ならぬ母なる大自然に誘(いざな)われて沖宮(海底)へと向かう道行きは、先日読み終わった『ゲド戦記』別巻の最後の一篇「トンボ」で、竜へと変身した主人公の少女が、変質した“均衡”を墨守する“呼び出しの長”を冥界に戻した後、西の空へ飛び立っていったシーンを思い出させた。不思議な縁を感じる。
雨乞いの人身御供となった少女が龍神ならぬ母なる大自然に誘(いざな)われて沖宮(海底)へと向かう道行きは、先日読み終わった『ゲド戦記』別巻の最後の一篇「トンボ」で、竜へと変身した主人公の少女が、変質した“均衡”を墨守する“呼び出しの長”を冥界に戻した後、西の空へ飛び立っていったシーンを思い出させた。不思議な縁を感じる。