「はて?」と問い続けたドラマ2024年10月25日 17:04

『虎に翼』が終わってしまいました。朝ドラを通して観たのは、カミさんの勧めで再放送された全編を観た『ちりとてちん』を除けば、はるか昔に遡ります。最後まで続いたのは、毎日ではなく、週末にまとめて放送する番組編成があってのことだったかもしれません。
 日本国憲法14条を柱に、法律の救いの手が十分に届かない問題を取り上げ、戦前から戦後にかけて生きた一人の女性法律家を主人公とし、数多くの示唆に富むエピソードで練り上げた傑作だったと思います。
 録画した画面のスタッフロールに懐かしい名前が出るのを楽しみに、週明け最初の回では、七七の字句から始まる米津玄師の主題歌をリモコン操作で飛ばすことなく聞き続けたことも、稀有(けう)のことでした。
 3年前の『ミステリーと言う勿(なか)れ』で初めて知った伊藤沙莉の熱演もさることながら、親友から義姉となる花江や、大学女子部4人の同窓生、そして母のはるや娘の優未など、それぞれの個性が際だつ女性たちによる、新しい群像劇を観るような心持ちで、なかでも、花江という女性を寅子と対称に置いた設定は、演じた森田望智(みさと)の演技もあって、とても印象深いシーンを残したと思います。
 「はて?」という「問い」の言葉が、様々な非合理や不条理に覆われた現状をあぶり出す寅子(ともこ)の真骨頂を表わすものであると同時に、彼女自身が見失ってしまいがちな普通の人々の想いを紡ぎ出す脚本の妙がまた見事です。「法の下に平等であって」という14条の字句を具体的な人間関係に広げた解釈とそこに声を上げ続けることの大変重い意義は、最終回にも間違いなく表現されていました。
 忖度に溢れた広報ばかりのニュースをよそに、このドラマが多くの視聴者の心に響いたことは疑いようがありません。時あたかも、検察と警察によって捏(ねつ)造された証拠で冤罪に問われた袴田さんに、無罪の再審判決が下りました。“司法”と名乗るからには、捏造した者らこそが裁かれなければならないでしょう。野間宏が書いた『狭山事件』(岩波新書上下巻)を読んで、権力が個人を陥(おとしい)れることの恐ろしさに一睡もできなかった夜を思い出しながら、声を上げ続けることを主題とした今回のドラマの素晴らしさをあらためて噛みしめています。