オーラルヒストリーとしての作文朗読 ― 2024年10月07日 16:50

ようやく暑さが峠を越したかと思われる昨今ですが、昨日は用があって横浜港の近くまで足を伸ばしました。前回の横浜市長選挙で争点となった山下埠頭へのIR誘致が中止となった後、再開発計画へ市民の声を届けようとする実行委員会の中に、横浜ボートシアターのメンバーが参加していて、船、正確には「艀(はしけ)」を舞台とする劇団ならではの新しい問題提起が企画されたのです。内容は艀の概要と生活史を辿る講演なのですが、劇団ならではのユニークな試みがありました。
戦後、高度成長に伴う物流の増加で活躍した横浜港の艀は、急速に数を増して港周辺の川沿いにも多数係留されましたが、徐々に大型のコンテナ船や荷揚げクレーンに置き換わり、今では埠頭周辺の一部に残るだけです。しかし、当時は職住一体となったその空間に多くの水上生活者が存在し、仕事に沿って東京湾を移動した関係で、彼らの子供たちは「水上学校」という寄宿舎付きの学校に通い、週末だけ艀に帰るような暮らしをしていました。その生活の記録が、戦後の一時期に全国へ拡がった綴り方運動のもとで、作文として文集に残っていたのです。
講演は、運河史研究の河北氏が歴史の概要を述べた後、前述の作文を一次資料として研究している横浜市発展記念館の松本氏が、その背景と個々の作文から読み取れる艀の生活を解説したのですが、その際、文章の紹介は、文字ではなく、横浜ボートシアターの舞台公演にも参加している演者が語ったのです。文集に残る作文は、いずれも“高評価”というフィルターのかかったものではありますが、読み上げられることで、公的文書などには残らない生活の一面を立体的に浮かび上がらせました。一種のオーラルヒストリーの再現とも呼べるような仕掛けです。
この「艀」講演はシリーズ化が予定されていますが、副題の通り、貨物ならぬ文化を運び、現代を“つなぐ”艀になりそうです。
戦後、高度成長に伴う物流の増加で活躍した横浜港の艀は、急速に数を増して港周辺の川沿いにも多数係留されましたが、徐々に大型のコンテナ船や荷揚げクレーンに置き換わり、今では埠頭周辺の一部に残るだけです。しかし、当時は職住一体となったその空間に多くの水上生活者が存在し、仕事に沿って東京湾を移動した関係で、彼らの子供たちは「水上学校」という寄宿舎付きの学校に通い、週末だけ艀に帰るような暮らしをしていました。その生活の記録が、戦後の一時期に全国へ拡がった綴り方運動のもとで、作文として文集に残っていたのです。
講演は、運河史研究の河北氏が歴史の概要を述べた後、前述の作文を一次資料として研究している横浜市発展記念館の松本氏が、その背景と個々の作文から読み取れる艀の生活を解説したのですが、その際、文章の紹介は、文字ではなく、横浜ボートシアターの舞台公演にも参加している演者が語ったのです。文集に残る作文は、いずれも“高評価”というフィルターのかかったものではありますが、読み上げられることで、公的文書などには残らない生活の一面を立体的に浮かび上がらせました。一種のオーラルヒストリーの再現とも呼べるような仕掛けです。
この「艀」講演はシリーズ化が予定されていますが、副題の通り、貨物ならぬ文化を運び、現代を“つなぐ”艀になりそうです。