戦慄の為のネットワーク2024年08月05日 16:18

猛暑の中、昨日は近場にある妙蓮寺の本屋・生活綴方へ出かけました。昨年暮れに聴いた小林豊さんのお話し以来のトークイベントです。「遠野物語からはじめる」と題して話すのは、遠野在住のプロデューサー兼踊り手である富川さんという若き語り部と、民俗学のポッドキャストを開いている岸澤さん。現在、この本屋で開かれている『本当にはじめての遠野物語』(遠野出版)原画展に合わせての開催となりました。
 柳田國男が青年佐々木喜善から聞き取った遠野地方の怪異譚を集成した『遠野物語』は、後の民俗学の進展にもつながる名著ですが、山中にありながら南部の要衝でもある盆地に伝わるこの昔語りは、今もその地で暮らす人々にとっては異界につながる道のような存在なのかもしれません。
 越後長岡出身で東京の広告会社に勤めていた富川さんが、地域文化に光を当てようと移り住んだ遠野で、地域史研究者との出会いをきっかけに“物語り”の世界に引き込まれ、ついには鹿踊りの踊り手となるまでの経緯と、その異界と共存するような土地の魅力をどのように域外へ発信していくのかが語られました。土地柄の影響もあるのでしょうが、彼の語り口には代理店の営業マンのようなトレンドワードを使ったプレゼン臭はありません。ただ、日々異界と繫がっているような山深い街の姿を“平地人”に伝えるための工夫が強く感じられました。それは、もしかしたら新しい“戦慄”を生み出すヒントになるものかもしれません。
 井上ひさしが新釈を施したり、京極夏彦がRemixしたりと、『遠野物語』は繰り返し作家に採り上げられてきました。もちろん、現地でも大平さんを始めとした土地の言葉による語り部も健在でしょう。ただ、その一方で、小盆地宇宙という特色ある地域空間が、各地方に健在し続けるための新しいネットワークが求められるような時代になってきたとも言えそうです。だからこそ「遠野物語から“はじめる”」なのでしょう。