夜空の星の追悼劇2021年08月23日 19:03

中学から高校にかけての一時期、星空をよく眺めていた。別に例えて言うならば“夜遊び”をしたかったからなのかも知れない。今と比べれば横浜の夜もまだそれほど明るくはなかったので、中心部から離れた磯子の奥でなら流星群もそれなりに見えた。だから、今でも星座の形を覚えている。
 コロナ禍の中、以前訪れたこともある西新井のプラネタリウムで宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を題材にした音楽朗読劇が開かれ、その内容がオンラインで無料公開された。昔から“賢治”の童話はそれなりに読んできたものの『銀河鉄道の夜』だけは苦手だった。それでも、多くの作家が様々な解釈で翻案したものをいろいろと観てきた経験はある。何と言ったら良いのか。気になる作品なのだ。
 今回の朗読劇には“能による”という言葉がタイトルに添えられていて、この作品を貫く“追悼”の意味合いが強くなっている。“賢治”という人そのものの複雑さを表すような重層的な夢想が繰り広げられる作品を、あまり脚色せず、わかりやすい解釈に陥らないよう人形や古楽器なども使いながら描いている。
 もともと、“わかりにくい”ということを引き受ける心持ちがあってこそ近寄れるような作品なのかもしれない。だから、解釈はひとそれぞれに委ねられるだろうし、何度も繰り返し書き換えられ、その一部が欠落してさえも惹きつけられる。