社会的な力への忌避2021年06月01日 11:50

『ゲド戦記』第4巻読了。第3巻までの壮大なファンタジーは影を潜め、ゲドの故郷ゴント島でのテナーを中心とした日常の細部が続く。その生活の中で、アースシー世界における魔法という“社会的な力”の構造の見直しが少しずつ行われる。それは魔法への“忌避”とも感じられるほどに…。
 同時に、ジェンダーあるいは女性性というものを、自らに掛けてしまう心理的な抑制から解き放つような“ことば”にして描く。一方で、ウィルスのように虚無が拡がった危機的な状況から、最後は竜の語る原初の言葉への信頼を最も弱い少女が取り戻すところで終わる。それは純粋さと賢さを勘違いして、間違ったことをする自らを想像できなくなっている“いま”を見つめることでもある。