聖なる夜の木2020年12月26日 15:55

コロナ禍のまま暮れる年の瀬、世間には虚妄の言葉がウィルスのように拡がっている。だから、しばし空語の世界から離れて本物の“絵”を観ることにした。インドのチェンナイで作られた手刷りの絵本『夜の木』。このところ、小さな出版社が出した本を買うことが多いが、これもその一つ。タムラ堂という。本の中に「覚え書き」や「通信」が入っていて出版するまでの経緯が熱く語られている。
手触りに特徴がある真っ黒な紙に、シルクスクリーンで印刷されているのは、以前紹介した『ロンドン・ジャングルブック』の作者バッジュ・シャームを含む3人のゴンド人画家が描く様々な“宿り木”である。人々が寝静まった頃、闇の中に目を凝らすと“木”に潜む不可思議な“精霊”が現れてくる。昔から語り伝えられた物語や想像の世界に生きる“もの”が、様々なカタチで大地に張る根や夜空へ伸びる樹枝と一体化する。
わずか19枚の絵が、インドの夜を華やかに切り取っている。そこには、今も自然との一体感が感じられる。疑わしい言葉で取り繕わなければならないようなモノはそこにはない。だから、いつのまにか引き込まれる。神々しく、時に近寄りがたいところもあるけれど、描くタッチは優しさにあふれている。
この本は増刷の度に表紙が変わる。今年の第9刷は「まもってくれる木」。作ったところも大変なコロナ禍にある中、3000部が日本へ搬送され、無事9月に発行された。そして、そのほとんどが売り切れたようで、妙蓮寺の小さな本屋に納品された内の最後の一冊を昨日購入することができた。もとよりクリスチャンではないが、サンタからの贈り物として読んでいる。いわば、“聖なる夜の木”である。