伝統芸能の基層にある自由2020年12月25日 15:52

この一年、コロナ禍での無聊を慰めてくれるものとして大いに助けられたのが、能楽師狂言方の奥津健太郎さんによる「オンライン狂言ワークショップ」である。本来は広尾の東江寺で親子の参加者に向けて開かれていたものが、対面での実施が難しくなり春からオンラインに切り替わった。そのタイミングで親子だけではなく、大人単独での参加にも応じてもらえるようになった。中には地球の反対側アルゼンチンからの参加者もいると聞く。
 4月26日から覚えているだけで15回。取り上げられた演目を並べると、「盆山」「雷(神鳴)」「柿山伏」「重喜」「膏薬煉」「痺(しびり)」「魚説法」「盆山」(シテ・アド逆)「酢薑」「附子」「仏師」「昆布売」など。
 それぞれ、短縮した実演を、ご自宅の稽古場から、奥津さんと長男の健一郎さんが黒紋付きに袴で届けてくれる。他にも能舞台で収録された「蜂」・「二人大名」や、シテ方をゲストに迎えての能「葵上」「鞍馬天狗」「敦盛」などの一部をオンラインで観せてもらった。
 そもそも、老松の絵を背景に想像の世界を拡げる芸能であるから、PC画面の短い実演の中にも、この芸能が持つ“身体”による豊かな表現が溢れていてとても楽しい。しかも、その“笑い”は、“力”あるものに対する揶揄に貫かれている。私のような少し天邪鬼な人間にとっても、それは日頃の鬱憤を晴らしてくれるものであったり、そうした視点で世の中を見ることへの学びになる。
 奥津さんからは、実演を補足する関係図書や図画など、インターネット上で探すことができる資料の数々を紹介してもらった。それは、一演者としての幅広い探究心と共に、“親子狂言”に見られるような次世代への普及活動から生まれた自然な態度のように思われる。能楽師ワキ方の安田登さんと共に開いている天籟能の自由さが伝統芸能の基層に深く根ざしたものであることと、それはとても良く似ている。

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