戦争を考える人を委員から外す政府2020年10月10日 14:29

日本政府が日本学術会議の「総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から」任命を拒否した東大文学部の加藤陽子教授は、近現代史のスペシャリストです。NHKの夏の戦争特集においても「戦後75年 私たちはなぜ戦争の歴史を学ぶのか」と題した8月13日の報道番組『視点・論点』に出演しました。つまりNHKの解説委員の説明だけでは困難な「国家による政策の是非をめぐっての鋭い意見対立が社会を分断する事態」への的確な“視点・論点”を提出してもらう専門家として登壇しているわけです。
2009年に高校生へ向けて書いた『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』とそれに続く『戦争まで』が累計36万部を越えたのは、前出の“なぜ戦争の歴史を学ぶのか”という問いに専門家として真正面から応えたものだからに違いありません。
その『戦争まで』の後書き(「おわりに」)には、江戸の儒学者荻生徂徠から教えられたとして、以下のような言葉が引かれています。「いにしえにあって学問は、「飛耳長目の道」と表現されていたといいます。飛耳長目とは、あたかも耳に翼が生え、遠くに飛んで行って聞いてくるように、自国にいながら他国のことを理解することであり、また、あたかも望遠鏡のように遠くを見通せる「長い目」で眺めるように、現在に生きながら昔のことを理解できること、という意味です」
前出番組の解説記事は今もNHK解説委員室のページにありますが、そこには、番組で述べた次の言葉が残されています。「鋭く意見が対立する状況では、それぞれの主張を支える根拠や決定へ至るプロセスが、国民の前で十分に情報開示されることが本当に大切だと思います。コロナ禍の中で戦争の歴史を考える意味はそこにあります。」
今、この時を暗示していたような歴史家の言葉に深くうなづかされます。