歌は海峡を越える2020年10月05日 14:28

一昨日のトークイベントの続きが急遽オンラインで配信されることになったと連絡を受けたので昨日参加してみた。Zoomによるウェビナーで福岡とソウルを結ぶセッションである。オンラインでどこにいてもアクセスできるのは良い反面、顔を出さずに聴いているだけだと、こちらの緊張感は欠ける。集中力が明らかに下がるので、気になる言葉をキーボードで打ちながら聴いた。以下イ・ジンさんの話から簡単なメモを残す。
 今回は『ギター・ブギ・シャッフル』を書いた著者イ・ジンさんと訳者の岡裕美さんが中心。韓国文学は時代性や社会性に溢れた作品が多いが、『ギター・ブギ…』に関しては著者の個人的な体験から多くが語られた。
 「1960年代の韓国の状況は関心が無い人には分かりにくいところもあるが、日本語訳の話はとてもありがたかったし、ロック好きな人には通じるかとも思った。実際、歴史小説でありながら音楽小説でもあるこの小説は、50歳代以上の年配者か、音楽マニアに向いている」
 イ・ジンさんは「キム・ジヨン」と同じ82年生まれ。30歳代後半の韓国人は日本文化に関心が深い。子供の頃に任天堂スーパーファミコンや漫画ドラゴンボールの洗礼を受けている。中にはブログで懐かしい品々を紹介する人もいる。テレビアニメーションも人気で夕方6時にはみんな家に帰って見ていたという。だから、そうしたものへの拒否感も薄い。厳格な校則があり勉強以外の趣味は禁止という雰囲気の女子校出身だが、本人はBUCK-TICKのコンサート会場横浜アリーナを始め日本を度々訪ねたという。小説には青春時代の経験がたくさん詰まっているそうだ。
 小説のモデルにもなっている1960年代の韓国語ロック黎明期の3人。シン・ジュンヒョン、ユン・ボッキ、イ・ウンミの最近の写真、ユン・ボッキ演じるところのアメリカ第8軍でのステージ動画も紹介された。ユン・ボッキは小学校入学前から舞台に立っていたそうで、日本で言えば、さしづめ美空ひばりだが、日韓芸能界での存在感はずいぶんと違ったものがある。こうした小説の背景を描くのに大衆音楽の歴史を調べたが難儀したそうだ。資料収集が難しい。この分野では日本に残る韓国ロックの資料を調べる人もいる。芸能ゴシップやレビューが載るヨンナム(龍山の南?)雑誌も紹介された。“タンタラ”という蔑称がやがて賞賛の意味を持つようになるのは、河原乞食が芸能人ともてはやされるようになるのと同じ理屈だが、彼らの活躍なしには今のK-POPの隆盛もなかったことだろう。戦後の米軍基地から拡がった日本のポップスと同時並行的に生まれた韓国音楽を気付かせてくれる小説である。
 それにしても、トークの最後にあったように、今、韓国文学を書き、翻訳し、読む主体が圧倒的に女性であることや、翻訳者が学府では無いところから輩出するのは、この時代を見事に象徴している。生きづらさの底辺から生まれた歌が日韓を架橋する。
 書影は登壇者姜信子さんの著書。遅ればせながら『ギター・ブギ・シャッフル』も読んでみたい

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