自らの中に旅するバウル2020年07月09日 12:02

“密”がとても恋しくなるような本を読み終わって困っている。2週間ほど前に発行されたばかりの『バウルを探して〈完全版〉』は、過日観た映画「タゴール・ソングス」にも出てくるバングラデシュの「バウル」を訪ねた旅の記録である。著者の川内有緒さんは国連職員だった5年半を含め世界各地の様々な場所を訪ね歩いた経験を持つ人だが、この旅はその中でも際だって特別なものだったことが“あとがきにかえて”書いたある人への“手紙”に記されている。それは奇跡とか僥倖という使い古された言葉では表せない。ある意味、この人にとって必然的なものだったのだろう。きっと、バウルに“呼ばれた”からに違いない。その一連のできごとが綴られている。
 この本は2013年に一度出版されている。同じ出版社から文庫本にもなって出たものが、こうして〈完全版〉という形で再刊されるには理由がある。一つは初刊の装丁に、旅に同行した中川彰さんの写真が章扉でしか使われていなかったからだ。その後の経緯については“手紙”でも述べられているが、今こうして目の前にある新刊を見れば、ここにも何かに“呼ばれた”ような“必然”を強く感じる。だから、是非手に取ってみて欲しい本なのだ。
 〈完全版〉の内容にふさわしい装丁には、全体の3分の1を占めるカラー写真の濃密で猥雑な世界が際立っている。私はまずそれを予備知識なしに一頁ずつめくりながら観ていった。180度開く少し変わった製本のおかげで、過密な街の様子が匂い立ってくる。目新しい風景に混じって、何が写真家の関心を呼んだのかよくわからないものもある。一つにまとめられない豊穣な世界は読者が感じたものをそのまま本文へとつなぐ“呼び水”のように最後は河の写真で終わる。
 続く本文の内容を紹介するのは難しいが、あえて一言でいえば、“探して”という言葉に集約されるような不思議な旅だったということだ。最終章にこんな記述がある。旅行中、通訳兼ガイドで同道したアラムさんから著者への「お願い」があった。
 「ワタシと友達になってくれますか」
 軍事政権に反対する運動に身を投じ、投獄されそうになって国外へ逃れたアラムさんは、タイを経由して日本に入国し、深夜の工事現場で働いたという。そこで知り合った男性のお母さんから世話になり、9年後に戻った祖国でお金を貯め、「日本のお母さん」であるシズエさんの名を冠した学校を故郷に建てたという。何かを“探して”いると、いろんな出会いがあるものだ。
 帯にも記されている若松英輔氏の解説だけはまだ読んでいない。稀代の批評家の文章を読んだ後では、自分の感想が揺らいでしまう。トンチンカンでも自分の中に旅するのが“バウル”らしい。

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