経済奴隷という仕組み2020年06月20日 11:53

私の日常生活のごく限られた情報摂取の中でも、深い関係性を持つ複数のコンテンツを別々に見いだすことがよくある。先日『プリズン・サークル』という映画をここで取り上げたが、今朝、小田嶋隆氏のWebコラム『ア・ピース・オブ・警句』を読んでいて、Netflixが配給していた『13TH』というドキュメンタリー映画を知った。「13TH」とは以下の合衆国憲法修正13条を意味している。
「第1節:奴隷制もしくは自発的でない隷属は、アメリカ合衆国内およびその法が及ぶ如何なる場所でも、存在してはならない。ただし犯罪者であって関連する者が正当と認めた場合の罰とするときを除く。
 第2節 議会はこの修正条項を適切な法律によって実行させる権限を有する。」(以上Wikipediaより)
 南北戦争後に作られたこの条項の、“ただし”以下に含まれる「犯罪者であって関連する者が正当と認めた場合の罰」という“除外条件”を使った経済的な奴隷政策が今に至るまで続けられてきたことを告発するものである。
 つまり、ひとことで云えば、犯罪者を増やすことにより利益を上げてきた組織があり、増やす対象として黒人(近年ではラテン系移民を含む)コミュニティが狙われてきた歴史がある。映画冒頭の具体的な数値がそれを如実に示している。アメリカの人口は世界全体の5%に過ぎないが、受刑者は25%に上る。つまり全世界で服役中の4人に一人がアメリカ人である。1972年に30万人だったアメリカの受刑者は2007年現在で230万人に増えた。そして、映画終盤でのもう一つの数値。一生涯のうちに投獄される“可能性”は白人男性の場合17人に一人だが、黒人男性の場合は3人に一人。結果として全米男性のうち黒人が占める人口割合は6.5%だが、全受刑者では40.2%を占める。
 微罪であっても一度収監されたことによる社会的な制裁は、市民権そのものにも影響を及ぼす。そうして国内に“疑似植民地”(宮地の造語)を作っては貧困層から収奪する経済システムができあがる。もちろん、一方には監獄業務の民営化で急拡大した産獄複合体が受刑者そのものの増加を“合法的”に後押しする。
 先月ミネアポリスで起きた白人警官による黒人男性“絞殺”事件を発端として「BLM」(Black Lives Matter)運動がコロナ禍にも関わらず再燃し、全米各地から世界的な拡がりを見せているのは、単に人種差別による社会的格差の解消だけではなくて、こうした社会格差を背景に“金”の力で“経済奴隷”を作り出してきた新自由主義に対する根源的な否定をも射程に捉えているからではないだろうか。
 アメリカが持つ自由な発言風土や為政者から独立したメディアの報道姿勢をもってしても、一度作られた法制度を変えることは至難の業なのだろうが、一部警察組織の解体まで進んだ今回の社会運動は、コンテンツプラットフォームのNetflixにこうした作品を無償で公開するに至る影響力を及ぼしていることは確かだ。
 日本でも、医療や教育など生活の基本となる社会“装置”が少しずつ私企業に委ねられ、そこに携わる現場労働者の多くが非正規となり、社会的な収奪のシステムができあがっている。コロナ禍に応じた現金給付の対策に電通やパソナが関連するトンネル法人が介在しては公金を“中抜き”していく今の政治のありようは、新自由主義下の“貧困層”という新たなコミュニティを収奪の対象にした「13TH」の翻案といっても決して言い過ぎにはならないだろう。