傑作を生み出す土壌2020年02月11日 11:40

ポン・ジュノ監督の映画『半地下』が米アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞した。中でも作品賞は英語以外の外国語映画では初めての快挙になる。一つには「外国語映画賞」という英語以外の映画作品を対象にした部門が今年「国際映画賞」と変わったように、英語以外の外国映画に対して大きく門戸を開くイメージが作品賞にも反映したと言えるのかもしれない。しかし、この5,6年の韓国映画の隆盛には驚かされる。それは急速なIT化にもかかわらず劇場観客動員が伸びていることだけでなく、文化としての映画を受容する観客に質的変化が表れている気がするのだ。つまり“目の肥えた”観客が求めるものに応じて製作される映画が増えているということである。
 この数年、私は伝統芸能を中心に生声を聴く口演に行くことが多くなったせいで、映画を観る機会そのものが減っているが、依然として韓国映画を選ぶことは多い。字幕無しで映画を観るまでには遠く及ばないままの状態で止まっている韓国語学習の為ではなく、映画のテーマそのものへの関心から選んだ結果だ。もちろん、朝鮮半島の近代史に関わる事件など、日本の近代史と切っても切れない関係にあって強く興味を惹かれる作品もある。ただ、数として、それはごくわずかだ。3,4年前まではよく観にいった韓国文化院図書映像資料室でのビデオ鑑賞での選択肢から考えても、この数年の多様な展開には目を瞠(みは)るものがある。
 だから、自らの作品に韓国社会の多様な問題を戯画化しながら、奔放にエンターテインメントとしても成立させるポン・ジュノ作品が広く認められるようになったのではないか。監督賞受賞のスピーチでマーチン・スコセッシから学んだと紹介した「가장 개인적인 것이 가장 창의적인 것이다」(最も個人的なことが最も創意的だ)という言葉は、一方で、それを我がことのように受け入れる幅広い文化受容が可能な鑑賞者の増えていることを示している。韓国の観客はこの映画をアカデミー作品賞だから観たのではない。それがうらやましい。

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