大衆の孤立は30年前から…?2020年01月18日 22:47

15日の水曜日、春節の飾り付けが始まった中華街を抜けて、久しぶりにKAAT(神奈川芸術劇場)を訪ねた。昨年横浜ボートシアターの『さらばアメリカ!』を観損ねたので、その前はたしか、三谷脚本の『国民の映画』初演を観て以来になるのかもしれない。大スタジオに入るのは初めてだ。同日、ホールでは元SMAPの草彅剛が主演する白井晃演出のブレヒト劇が上演されるので数多くの女性客が目立った。私が観たのはダンサー“山田うん”さん演出の「NIPPON・CHA!CHA!CHA!」という演劇とダンスの上演である。
 題名でお気づきの方もいるだろうが、オリンピックと関係がある。マラソンでの出場を目指した“若者の孤独と挫折”を描いた如月小春の戯曲である。初演はソウル五輪が開かれた1988年だが、想定されているのは1964年の東京五輪である。20年前の国民的行事を背景にした芝居が、初演の30年後にまた再演されたということになる。20世紀末に亡くなった劇作家如月小春の名前は、もう今の若い人には想像できないかもしれないが、私ぐらいの世代にとっては未だに“キラキラ”した輝きを残したままでいる。野田秀樹や渡辺“えり子”等の小劇団第三世代の同期だが、彼らのような今までに無かった破天荒な舞台というより、大衆社会での人々の孤立・孤独が主なテーマだった。当時流行した“都市論”の影響も大きかったのだろうが、随分と先を見ていたのかも知れない。当時は良くわからないまま、彼女が立ち上げた劇団「NOISE」の芝居を随分観に行った記憶がある。
 再演された作品自体は初見だが、演題が示すように、集団の熱狂の中にいる“個人”を浮き立たして、大衆社会の孤独を考えるというテーマは通底しているように感じる。劇団「NOISE」は音楽や映像とのコラボレーションが巧みだったが、今回の公演ではヲノサトルさんの軽妙な音楽に加え、建築家・画家の光嶋裕介氏が担当した空間構成が見事だった。舞台装置が幾何学部品のように分離し、それが様々な形状を構成しながらシーンの背景を形作っていく。シンプルでいて非常に考え抜かれた“カタチ”は、まるで後半に演じられるダンスパフォーマンスにも対応していているようにさえ感じた。主演の前田旺志郎は是枝監督『奇跡』以来だったけれど、大きく成長していて演劇・ダンスとも素晴らしかったし、特にダンスは入れ替わる“孤”とそれを取り囲み見守る“群れ”のようなイメージがとても面白かった。
 如月小春作品の台詞は日常の中で使われる言葉から離れない。それでいて、日常を超える世界を垣間見せる。それが真骨頂だ。だから、世紀を超えて初演30年後の今も繰り返し上演されるのだろうか。また、観に行きたい。

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