ニュースアンカーの述懐2019年07月02日 14:08

テレビを見なくても「くりぃむしちゅー」の上田晋也という芸人は知っている。カミさんが時々「おしゃれイズム」という番組を録画して見ていたからだ。その上田晋也がMC(Master of Ceremony)を担当する「サタデージャーナル」という報道番組が四半期で改編されてなくなり、当の本人も降板した件が、ネット上で大きく広がっている。その最後のコメントが実に“真っ当”であることを多くの人が取り上げているのだが、“真っ当”であるがゆえに目立つという事態は、世の中が既に異常な状態にあることの裏返しであると言えるのだろう。
 安倍政権になってからというもの、メディア企業の上層部が頻繁に首相と会食するという習慣が続いていて、政権に批判的な発言を行う司会者やコメンテーターが、テレビ各局の主要な報道番組から軒並み降板させられていることは今さら驚くに価しない。私が唯一録画しているニュース番組「報道特集」がいつまで持ちこたえてくれるのか心配ではあるが…。この番組のMCを務める金平茂紀氏は、元朝日ジャーナル編集長の筑紫哲也をMCに据えた「NEWS23」の編集デスクとしてTBSの報道を牽引した。当初「NEWS23」は先行する「ニュースステーション」への強い対抗意識を持って生まれたと記憶している。
 その「ニュースステーション」、そして「NEWS23」担当MCの最後の発言がいずれもYoutubeに残っていた。久米宏は関係者への謝辞の前に「民間放送は原則としてスポンサーがいないと番組が成立しないんです。そういう意味では脆弱で危険なものなんですけれど、僕はこの民間放送が大好きなんです。なぜかというと日本の民間放送は原則として戦後全て生まれました。民放は戦争を知りません。国民を戦争に向かってミスリードした過去はありません。これからもそういうことが無いことを祈っております」と語った。罹病して降板した筑紫哲也は「ガンに冒されると本来人間が生きるために使うべき栄養とかエネルギーがそこに向かなくなっちゃう。この国はひとことで云えばガンに罹っている。そういう状況だと思っています。起きていることは非常にはっきりしています。それに対してどうするのか。ある意味単純である。だからやれることは簡単かというとそうではありません。しかし、問題はここにあるんだということをはっきりしないと何も始まらない。その上でそれに向かって闘うのか。負けるのか。そこが私たちに迫られている選択肢だろうと思います」と延べ、最後に「単純な話をするのにも時間はいるんですね。それに比べるとテレビは短すぎたなといつも思います。短くしか説明できないテレビの恐ろしさと欠点を今離れてつくづく思います」とまとめている。(コメントを一部簡略化)
 それぞれ15年前と11年前に語られた二人のニュースキャスターの残した言葉の中に、メディアに潜む“危険”と“恐ろしさ”が含まれていることに驚かされた。永い間、報道の最前線で活躍した人たちならではの実感でもあるのだろう。ドラマの映像調整をしながら嘘(フィクション)の世界を創り続けた経験から、ニュースもまた“虚業”に過ぎないと考えることは多いが、その語り口に込められた思いを受け止め、その上で自らが“考え”、納得する答えを出していくことからしか始まらない。少なくとも私はそれを“民放”の報道番組から学んだ。

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